2012年04月15日

〔マルコによる福音書講解説教〕

第78回「マルコによる福音書14章12〜17 節」
(11/03/13)(その2)
(承前)

 しかし、その後の歴史の中で、イスラエルは、祭りの段取りをきちんと守る
ことにのみ関心を向けることとなります。イエスの時代のユダヤ教においては、
ミシュナー(口伝律法)、ハラカー(施行細則)において、この祭りをきちんと、
本当にきちんと守るためのシナリオが作られることとなりました。
 ミシュナー、ハラカーにおいて、どのようなことが語られているか、項目だ
けでも挙げてみることとします。
 まず最初に、パン種の移動について。ここでは、これがニサンの月の14日の
前の夜に行われるべきことなどが述べられています。次に、種入れぬパンの用
意すべき穀物について。それは小麦、大麦、トベルト麦、ライ麦、カラス麦で
あって、十分の一税が課されたものであるべきことが述べられています。
 次に、各家庭にある、発酵させたものはどうするか、という問題。たとえば、
家禽のためのもみがらは、水につけてはならず、煮沸するように…、といった
ことが決められています。さらに、細かいことですが、いつも夜から次の日の
昼までを勤務時間としている人々、仕立て屋、床屋、洗たく屋は、パスカの夜
も通常通り仕事をしていい、といったことなどが、定められています。
 そして、いよいよパスカの献げ物の屠殺と食事についてですが、献げ物の小
羊は、ニサンの月の午後2時30分に屠殺され、一時間以内に神殿に献げられね
ばならない、そしてそれはパスカの食事のためにローストされねば(焼かれね
ば)ならないことが定められています。さらにローストの仕方についても、ざ
くろの木でできた焼き串を用いて焼くこと、また串刺しの仕方についても細か
く定められています。
 また、パスカがたまたまサバトにかかってしまう心配もあります。そうする
と、殺したり、血を注ぎかけたり、残りを捨てたり、脂身を燃やしたりするこ
とができません。が、焼くことそのものや、残りをすすぐことはサバトの禁令
に抵触しないので、これらの作業だけはサバトにかかってもよい、といったこ
とが定められています。
 要するに、パスカ、アズマは正確な時間表・マニュアルに従って執行されて
いた、ということです。パスカの小羊を屠る日はニサンの月の14日午後2時30
分と決まっていました。すなわち、12節で言う「日」が、パスカの小羊を屠る
日だったとすると、その日は除酵祭の一日前でなければならない、ということ
です。「除酵祭の第一日」は、明らかにマルコの間違いです。間違いの原因は、
いろいろ考えられますが、アラム語で書かれた資料をギリシア語に移し変える
時に間違いが生じたとも考えられています。
 とにもかくにも、パスカの準備をする日に、弟子たちが、パスカの食事をす
る準備をイエスに提案しました。ところが、イエスは、弟子たちに言われるま
でもなく、すでにパスカのために周到な準備をしていらしたのです。

 13-17節「そこで、イエスは次のように言って、二人の弟子を使いに出され
た。『都へ行きなさい。すると、水がめを運んでいる男に出会う。人について
いきなさい。その人が入って行く家の主人にはこう言いなさい。「先生が、
『弟子たちと一緒にパスカの食事をするわたしの部屋はどこか』と言っていま
す。」すると、席が整って用意のできた二階の広間を見せてくれるから、そこ
にわたしたちのために準備をしておきなさい。』弟子たちは出かけて都に行っ
てみると、イエスが言われたとおりだったので、パスカの食事の準備をした。
夕方になると、イエスは十二人と一緒にそこへ行かれた。」

 パスカの食事の準備とは言っても、イエスがご指示なさったのは会場の準備
です。イエスは二人の弟子(マタイではペトロとヨハネとなっています)に、事
細かに指示をされました。「都へ行きなさい」は、原文では「町へ行きなさい」
です。しかし、申命記16:1-8において、パスカが行われる場所は、「あなたの
神、主がその名を置くために選ばれる場所(=エルサレム)でなければならない」
と定められているために、「都」と意訳しているのです。ともかく、この人は
まずエルサレムへ行くこと、そしてそこで水がめを運んでいる男に出会うであ
ろうこと、を予告されました。この箇所を、イエスの超能力の表現と受け取る
人もいるようですが、もちろんそうであるかもしれませんが、男性で水がめを
運んでいる人は珍しかったと考えられるので、イエスは準備をされて、その人
をサインとなる人と決めておかれたのかもしれません。そして、その人が入っ
て行く家が、パスカの食事のために用意された場所だ、ということでした。こ
れもイエスがあらかじめ準備されたことと考えられますが、そこで、「先生が、
『弟子たちと一緒にパスカの食事をするわたしの部屋はどこか』と言っていま
す」と言えば、席が整った二階の大広間を見せてくださるだろうから、そこに
場所を定めよ」とのご指示でした。
 二人がエルサレムに出かけて行ってみると、すべてイエスが言われたとおり
でした。イエスはお言葉どおり準備されたのです。

(続)


(C)2001-2012 MIYAKE, Nobuyuki & Motosumiyoshi Church All rights reserved.