2012年03月18日

〔マルコによる福音書講解説教〕

第76回「マルコによる福音書13章28〜37 節」
(11/2/27)(その2)
(承前)

 「いちじく」と聞いて、だれでもが思いつくのが、マルコ11:12-14,20-25の、
イエスが枯らしたいちじくの木のことです。しかし、イエスがいちじくの木を
枯らしたからといって、それはいちじくの木が悪かったからではありませんで
した。イエスがいちじくの木を枯らしてしまったのは、イエスが、ユダヤ教の
神殿礼拝のシステムに対して裁きを行われる、このご決意を、いちじくの木を
枯らすという形でお示しになられるためでした。あの事件においては、いちじ
くの木そのものから学ぶことは何もありませんでした。それでは、いちじくの
木そのものから学ぶたとえ、格言とは何でしょうか。それは、イエスが、福音
書記者の知らないところで語られたたとえを引用されたのか、ここで初めて言
われたのか、定かではありませんが、いちじくの木の生態に由来するたとえ、
格言です。それはどのようなものでしょうか。
 パレスチナにおいても季節の移り変わりはあります。が、年間の気温差の少
ないパレスチナにおいては、常緑樹が多く生息することとなります。しかし、
それらの常緑樹の中にあって、いちじくの木は珍しく、冬が過ぎると新しい葉
芽が芽生え、それがだんだん大きくなって夏を迎えることとなります。それゆ
え、人は、いちじくの葉を見ることによって、季節の移り変わりを知ることが
できるのです。ちなみに、参考までに、ルカによる福音書の平行記事では、イ
エスが、「いちじくの木やほかのすべての木を見なさい(ルカ21:29)」と言わ
れた、と記されています。この「ほかのすべての木…」は、著者ルカが、パレ
スチナの生態を知らないで付け加えてしまったもの、と考えられています。
よって、いちじくの木のたとえ、いちじくの木から学ぶ格言とは、「物事には
前兆がある。だから、それを察知せよ」ということになるのではないでしょう
か。
 さて、それでは、イエスは何を何の前兆として察知せよ、とおっしゃられた
のでしょうか。

 29節「それと同じように、あなたがたは、これらのことが起こるのを見たら、
人の子が戸口に近づいていると悟りなさい。」

 実は、この節には、日本語訳聖書を読んだだけでは分かりにくい、解釈上の
難問があります。「人の子が」と訳されているところですが、原文では、実は
主語が明記されていません。動詞の形から推測するに、「それ」か、「彼」で
す。しかし、「それ」ないし「彼」は何者なのでしょうか。イエスは、「それ」
ないし「彼」をもって何を指し示そう、とされたのでしょうか。そこで、イエ
スの宣教活動の経過を振り返ってみると、イエスはそもそも「神の国は近づい
た。悔い改めて福音を信じなさい」とおっしゃられて宣教活動を開始されまし
た。だとすると、ここでイエスが「近づいている」、「戸口まで近づいている」
と言われているのは、神の国のことなのではないでしょうか。だとすると、イ
エスはここで、神の国、神の支配の到来を、前兆を見て察知しなさい、と言わ
れたのではないでしょうか。
 それでは、神の国、神の支配の前兆となるものは何でしょうか。それは、こ
の節で「これらのこと」と言われていること、すなわち神殿崩壊なのです。神
殿崩壊は大変に痛ましい出来事です。が、同時に、神の国、神の支配を産み出
すための産みの苦しみでもあるのです。
 イエスはさらに言葉を継がれます。

 30-31節「はっきり言っておく。これらのことがみな起こるまでは、この時
代は決して滅びない。天地は滅びるが、わたしの言葉は決して滅びない。」

 29節と同様、「これらのこと」とは神殿崩壊です。神殿崩壊が起こるまでは、
今の時代が過ぎ去って、神の国、神の支配、そして新しい神の国の教会の時代
が始まるということはない、ということです。なお、「滅びる」「滅びない」
という訳は強すぎます。原文は、「過ぎ去る」「過ぎ去らない」というニュア
ンスです。
 自然界では、悠久に同じことが繰り返されているように思われるかもしれま
せんが、実はどんどん変化しています。しかし、神だけは、神のご意思だけは
変わりません。イエスは、その神のご意思をロゴスという形で弟子たちに示さ
れました。ですから、イエスの言われたことは必ず起こるのです。こうして、
弟子たちの、「そのようなことは起こってほしくない」という願望を実は内に
秘めた、「神殿崩壊はいつ起こるのですか」という問いに対する最終回答が得
られました。「いつ」は言われませんが、必ず起こるということ、そして、そ
れは神の国到来の予兆である、ということです。
 しかし、神殿崩壊に始まる一連の出来事が、終末の出来事の一環として起こ
ることも、イエスがすでに預言の中で言われたことです。そこで、イエスは、
終末を迎えるに当たっての命令を弟子たちに与えられました。

 32節「その日、その時はだれも知らない。天使たちも子も知らない。父だけ
がご存知である。気をつけて、目を覚ましていなさい。その日がいつなのか、
あなたがたには分からないからである。」

(続)



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