2012年01月15日

〔マルコによる福音書講解説教〕

第70回「マルコによる福音書12章38〜44 節」
   (11/1/16)(その3)
(前号より続く)

 後に、イエスにナルドの香油を注いで、イエスの贖いの恵みに与った女性が
いますが(14:3以下)、このやもめは、その女性の先駆けとなったのです。十二
人も、イエスの言葉を確認することによって、これからの教会形成の足がかり
としたはずです。
 彼女を貪り続けるだけで、生かすことのできない神殿礼拝は、それなりの運
命をたどることとなります。イエスにすべてを委ねるとき、そこに礼拝が成立
する、という意味で、私たちもこの女性を模範としてまいりたいものです。

(この項、終わり)


第71回「マルコによる福音書13章1〜2節」
   (11/1/23)(その1)

 1節「イエスが神殿の境内を出て行かれるとき、弟子の一人が言った。『先
生、ご覧ください。なんとすばらしい石、なんとすばらしい建物でしょう。』」

 マルコの時間表によると、イエスは日曜日にエルサレムに入城され、翌日つ
まり月曜日に宮きよめをされました。そしてその次の日、火曜日ですが、この
日は、「枯れたいちじく」から始まって、サンヒドリンの代表、ファリサイ派
とヘロデ派の連合軍、そしてサドカイ派、とユダヤ教の論敵と次々に対決され、
ついにユダヤ教に対して、三行半を突きつけ、「やもめの献金」で一日が終わ
ると思いきや、まだ終わりませんでした。何とこの同じ日に、神殿の崩壊を予
告し、そしてオリブ山に行かれて、終わりの日の預言をされて、それでやっと
一日が終わるのです。実に濃密な火曜日です。イエスはご自身の十字架を目前
にされて、密度の高い一日を過ごされたのでしょう。しかし、弟子たち、そし
て人々は、イエスのペースについていけたのでしょうか。ヨハネによる福音書
は、他の福音書と違って、イエスが半年間に亘ってエルサレムに滞在され、そ
の間に、人々が、「信じる者」と「信じない者」とに二分されていった、と報
告しています。しかし、イエスが十字架を目指して先へ先へと進まれたことは、
どの福音書も共通して述べているところです。マルコの記す時間表どおりであっ
たかどうかはともかく、宮きよめから始まった、ユダヤ教への通告は、ついに、
あの立派な第二神殿の崩壊予告にまで至った、それが今日の場面です。
 弟子の一人、前後関係から言えば、十二人の一人でしょう。だれであるかは
わかりませんが、建物の大きさのみに目を奪われているところを見ると、イス
カリオテのユダではないか、との想像も浮かびます。イエスと一緒に神殿に行
く時、神殿を振り返って、「先生、ご覧ください。何とすばらしい石、なんと
すばらしい建物でしょう」と言いました。「何とすばらしい」と訳されている
部分は、原文では「いかなる種類の」です。他に比するもののないくらいすば
らしい、という意味です。
 当時の神殿がいかにすばらしいものであったか、現代の私たちは想像するし
かありません。なぜなら、この神殿は、紀元後70年に始まったユダヤ戦争にお
いて、同じ年のアブの9日、アブとは現代の暦の7〜8月にあたりますので、現代
の暦で言えば、7月25日ごろということになるでしょうか、ローマの将軍、後の
皇帝ティトゥスの率いるローマ軍によって、火を放たれ、灰燼に帰して以来、
二度と再建されることがなかったからです。
 もちろん、発掘調査という手立てがありますから、かなりのことが分かって
来ています。が、未発掘の部分も多いということで、まだ、全容は解明されて
おりません。とは言え、ヨセフスによる資料が、文章という形でではあります
が、神殿の様子をかなり詳しく伝えていてくれます。
 ヨセフスの「ユダヤ戦記」5.5:1-6は、神殿のすばらしさを、微に入り細に入り、
サイズを明確にしつつ、まるで設計図を見ながら説明するがごとくして、紹介
しています。
 このうち、最後の部分において、神殿の外部から見た様子について、ヨセフ
スは次のように記しています。
 「神殿の外装については、心も目も仰天させるものばかり。なぜなら、どの
側面も金の板が敷き詰められているからである。太陽が当たると、それは火の
ような輝きとなり、人は眼をそむけざるを得ない。遠くから見ると、それはま
るで雪に覆われた山のようだ。金で覆われた全体が、遠くから見ると純白、最
高の純白に見えるからだ。その頂は、天へ突き出した鋭い金のスパイク(大くぎ)
のごとくして、鳥も止まることができず、それゆえ鳥が屋根を汚すこともない。」
 なんとも豪勢な神殿だったようです。しかし、ヨセフスは、この神殿が灰燼
に帰したことを踏まえた上で、この記述をしていますから、実際よりも美化し
ているかもしれません。が、その分差し引いたとしても、かなり立派な神殿で
あったことは確かです。
 イエスの弟子も言っているように、この神殿建築に使われた石も見事なもの
だったようです。ヨセフスによれば、そこに使われている石のあるものは、長
さが45キュビト(約20メートル)、高さが5キュビト(約2m25p)、厚さが6キュ
ビト(2m75p)でした。全部が全部このサイズではないとしても、何と見事な石
でしょう。

(続く)



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