2011年10月23日
〔マルコによる福音書講解説教〕
第64回「マルコによる福音書11章27-33
節」
(10/11/28)(その2)
(前号より続く)
そして、その裁きの対象となる事案は、宮きよめでした。それで
は、彼らは宮きよめの何を問題としていたのでしょうか。
宮きよめにおいて、イエスはそこで売買をしている人たちを追い
出し、両替人や鳩を売る者の腰掛けをひっくり返し、境内を通って
物を運ぶことをお許しになりませんでした。このイエスの行動を、
ユダヤ教の一連の改革運動の一つと受け取ることも可能です。もし、
サンヒドリンのメンバーが、イエスの行動をそのように受け取って
いたとしたら、大変にわかりやすいこととなります。ミシュナーの
中のサンヒドリンに関する規定の中に、「絞め殺し」の罰を加えな
ければならないとされる罪が七つ挙げられています。たとえば、@
自分の父や母を撃つ者、A同胞から盗みをする者、B法廷の決定に
挑む長老、などです。そして、そのほかにC偽預言者、D偶像の名
によって預言する者が含まれています。偽預言者とは、実際には聞
かなかったことや、語られなかったことを語る者のことです。つま
り、サンヒドリンには、偽預言者であるかどうかをチェックする義
務と責任があったのです。それで、イエスにまず「何の権威で、こ
のようなことをするのか。だれが、そうする権威を与えたのか」と
聞いたのです。神であればO.K.、偶像であれば死罪です。が、イエ
スはこの問いには答えられませんでした。
29節〜「イエスは言われた。『では、一つ尋ねるから、それに答
えなさい。そうしたら、何の権威でこのようなことをするのか、あ
なたたちに言おう。ヨハネのバプテスマは天からのものだったか、
それとも、人からのものだったか、答えなさい。』」
イエスがもしユダヤ教の改革者としての道を選択されるならば、
ここではサンヒドリンにご自分の権威が上からのものであることを
認めさせて、改革の実(じつ)をあげることに力を尽くされたことで
しょう。しかし、イエスはただのユダヤ教改革者ではあられません。
すべての人が救われるための神の国、神の支配の始まりを告げ知ら
せるために宣教活動を開始され、その完成のために、今まさに十字
架に赴こう、としておられる方です。この神の国の完成のためには、
ユダヤの神殿礼拝に終止符が打たれ、神の国の教会の礼拝が始めら
れねばなりません。この教会形成のため、イエスは好んでではあり
ませんが、ユダヤ教の宗教・政治権力であるサンヒドリンとの対決
もあえて辞さないのです。そういう覚悟なのです。もちろんこの対
決は、相手が裁判権を持っているがゆえに、有罪判決、死罪をも覚
悟しなければならないものです。しかし、イエスは十分承知の上で、
サンヒドリンと対決、いや挑発なさるのです。
ユダヤ人が神の国を受け容れるためには、どうしたらよいでしょ
うか。まずその特権を放棄しければなりません。割礼ではだめです。
洗礼を受けなければなりません。まず、ヨハネのバプテスマを受け
容れるかどうか、が問われます。
31節〜「彼らは論じ合った。『「天からのものだ」と言えば、
「では、なぜヨハネを信じなかったのか」と言うだろう。しかし、
「人からのものだ」と言えば…。』彼らは群衆が怖かった。皆が、
ヨハネは本当に預言者だと思っていたからである。そこで、彼らは
イエスに、『分からない』と答えた。すると、イエスは言われた。
『それなら、何の権威でこのようなことをするのか、わたしも言う
まい。』」
タイムラグ(時間のずれ)があります。別室に籠って、サンヒド
リンの小会議が開かれたようです。紀元後21年のヨハネの死後、ヨ
ハネの預言活動についても、サンヒドリンの審議が行われてきたこ
とでしょう。そして、十年以上たったその時も、まだ結論が出てい
なかったようです。本当は、サンヒドリンはヨハネに偽預言者のレッ
テルを貼りたかったことでしょう。しかし、その結論を留保した主
な理由は、神への敬虔ではなく、民衆の反応への配慮でした。しか
し、イエスにとって、そのようなサンヒドリンの内部事情はどうで
もいいことです。そのような、サンヒドリンに答弁を拒否するとい
うことで、サンヒドリンの権威そのものを否定するという、サンヒ
ドリンにとっては神経を逆なでされる行為を行われることによって、
イエスの十字架はますます近づくこととなりました。
イエスはそこまでして、神の国の教会の形成を目指されました。
今、私たちはその教会に連ならせていただいております。イエスの
愛を素直に受け止める者として、一歩を歩み出したいものです。
(この項、終わり)
第65回「マルコによる福音書12章1〜12節」
(10/12/05)(その1)
1節「イエスは、たとえで彼らに話し始められた。」
章は替わっていますが、物語は前回の続きです。宮きよめの翌日
のこと、イエスは神殿の境内で、祭司長たち、律法学者たち、長老
たち、すなわちサンヒドリンの議員たちと出会いました。たまたま
出会ったのか、あるいはサンヒドリンの議員がイエスを捜していて
出会ったのか、それはわかりません。ともかくそこで、イエスが何
の権威を持って宮きよめをしたのかが問題となりました。
(この項、続く)
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