2011年07月17日
〔マルコによる福音書講解説教〕
第57回「マルコによる福音書10章32〜34
節」
(10/09/05)(その2)
(前号より続く)
さて、この緊張感あふれる場面で、イエスは十二人をお呼び寄せ
になられました。
32節後半「イエスは再び十二人を呼び寄せて、自分の身に起ころ
うとしていることを話し始められた。」
イエスに従った者たちの第一は、「弟子たち」です。十二人以外
の弟子も含まれていた可能性があります。第二は「従う者たち」で
す。これらの人々が共に前へ進んでいるのに、イエスはなぜか「十
二人だけ」を呼び寄せられました。なぜでしょうか。それはここか
ら「イエスと十二人のドラマ」の第二幕が始まるからです。
第一幕は5:7から始まりました。ですから、10:32でイエスが「再
び十二人を呼び寄せた」の「再び」のもう一回は5:7です。第一幕の
展開は次のとおりです。第一幕は、イエスが神の国の新しい十二部
族の教会の建設を決意されたところから始まります。イエスはこれ
以後、ユダヤ教の会堂での宣教をされません。教会が建設されねば
ならないのです。そこでイエスは、新しいイスラエルの十二部族の
長、教会のリーダーとなるべく召された十二人を呼び寄せ、宣教活
動に派遣されました。遣わされた十二人はそれなりの成果を上げ、
新しい十二部族の教会は順調なスタートを切ったかのごとくに見え
ました。しかし、敵対するこの世の勢力は極めて強いのです。この
後、マルコは、ヘロデによるバプテスマのヨハネ惨殺の有様を事細
かに描いて、「地の国、地の支配」がいかに喜びがないものか、を
描きます。それに比して、神の国、神の支配はいかに喜びに満ちた
ものか、イエスは、五千人の供食をもってそれをお示しになられま
した。供食の時、イエスは人々を組に分けました。多分十二組でしょ
う。整列させ、弟子たちに食事の世話をさせました。十二人は、神
の国の新しい十二部族の教会の、それぞれの世話係だからです。し
かし、十二人はこの仕事に失敗しました。食事を分けることはしま
したが、神の国の食事が、イエスによって用意されるパンによって
なされるということを信じられなかったからです。それゆえ、五千
人の供食の物語は、十二人が「十二人」と呼ばれることなく、終わっ
てしまいました。未完成のまま終わってしまった教会の世話、これ
が、イエスと十二人のドラマの第一幕の終結です。第二幕において
は、十二人が、イエスが天からのパンを与える方、いやパンそのも
のであられることを信じられるかどうか、が問われることとなりま
す。
幕間において、イエスは第二幕の準備を進められます。一つは弟
子たちへの十字架告知です。天からのパンをいただくということは、
イエスの十字架を受け容れるということだからです。第二は、どう
したら十字架を受け容れられるか、懇切丁寧に弟子たちに教えられ
たことです。十字架を受け容れるためには、小さくならねばならな
いこと、富に執着したままでは、十字架を受け容れられないこと、
を説かれます。
そして、イエスが実際に十字架への道を一歩踏み出されると共に、
イエスと十二人のドラマの第二幕が始まりました。イエスが実際に
十字架に架かられるに際し、十二人が実際にどのような反応を示す
か、が第二幕のテーマです。五千人の供食の時に受け損ねた天から
のパンを、十二人がいただけるかどうか、十二人が十字架を受け容
れられるかどうか、が問われています。十二人は、果たして新しい
イスラエルの十二部族の教会のリーダーになれるのでしょうか。
第二幕は、イエスが十二人にこれからイエスの身に起ころうとし
ていることを語るという場面から始まります。が、ここでイエスが
十二人に語られたことは、大変衝撃的なことでした。
33-34節「今、わたしたちはエルサレムへ上って行く。人の子は祭
司長たちや律法学者たちに引き渡される。彼らは死刑を宣告して異
邦人に引き渡す。異邦人は人の子を侮辱し、唾をかけ、鞭打った上
で殺す。そして、人の子は三日の後に復活する。」
第二幕は、イエスが実際に十字架に架かられ、そして、弟子たち
が実際にどのような反応を示すか、という幕ですから、イエスの
「これから身に起ころうとしていること」についての表現もリアル
です。受難予告としては三回ですが、「この宣教活動は、人々の敵
意と殺意とを引き起こすのではないか」との予感に基づく二回目の
受難予告はもちろん(9:30-32)、第一回目の受難予告(8:31以下)よ
りはるかに具体的です。まず第一に、長老、祭司長、律法学者から
殺されることは、第一回目の受難予告でも述べられていますが、今
回は「彼らは死刑を宣告して、異邦人に引き渡す」と、彼らのなす
行為が極めて具体的に述べられています。さらに一回目の受難予告
では全く触れられていなかったのですが、「異邦人は人の子を侮辱
し、唾をかけ、鞭打ったうえで殺す」と、その引き渡された異邦人
の行為も生々しく描かれています。今、私たちは十字架の話に慣れ
てしまっているかもしれませんが、初めて、しかも当事者であるイ
エスから直接話を聞いたとしたら、耳をふさぎたくなるくらい残酷
な話です。
(この項、続く)
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