2010年12月26日

〔マルコによる福音書講解説教〕

第42回「マルコによる福音書7章14〜23節」
(10/04/25)(その3)
(前回に続く)

 イエスが来られて、何が変わったのでしょうか。人間の罪のゆえ
に汚れているとされた動物たちが、人間の罪の贖いが全うされたが
ゆえに、汚れているとされる必要がなくなった、清いと宣言された
のです。食物規定を守って礼儀正しい生活をしようとする生き方は
気高いとしても、食物規定そのものに意味がなくなってしまったの
です。しかも、そもそも汚れが食物から伝染するのではないとする
と、汚れを防ぐ、つまり神の前に礼儀正しい生活をするためには、
「別の方法」が求められるのではないか、その方法が21節以下に示
されているのです。
 イエスによれば、「人間の心から」、つまり、人間の神に対する
根本的不従順から、21〜22節に示されている12の汚れが出て来ます。
ちなみに12は完全数です。その汚れの本当の仕組みが分かったから
には、弟子たちは、もちろん私たちもですが、どうしたらよいでしょ
うか。一つには、神への根本的不従順を乗り越えること、第二には、
不道徳な行いを避けることです。神への根本的不従順を乗り越える
と言っても、心の中の問題としてだけ捉えたならば、単なる「つも
り」「思い込み」で終わってしまうかも知れません。そうではなく
て、同時にここに挙げられた12の行為を避けることによって、内外
共に、礼儀正しい真のホーリネスへの道が開かれるはずだ、それが
イエスのメッセージです。
 もちろん、私たちは、わかってはいてもよい行いができない弱さ
を抱えています。しかし、イエスが真剣に「善い行いをせよ。悪い
行いを避けよ」とおっしゃっておられるのですから、私たちも、真
剣にイエスに聞き従ってまいりましょう。

(この項、終わり)


第43回「マルコによる福音書7章24〜30節」
(10/05/02)(その1)

 本日のテキストは、新共同訳聖書のタイトルによれば、「シリア・
フェニキアの女の信仰」という物語です。イエスが、シリア・フェニ
キア生まれの、すなわち異邦人の女性と出会って、その娘の癒しをさ
れるという大変印象的な物語です。異邦人伝道の問題もかかわってく
る、という意味で、大変重要な物語でもあります。
 しかし、この物語には、ほとんど同じ設定で、「カナンの女の信仰」
とタイトルがつけられた、マタイによる福音書の物語があります(マタ
イ15:21-28)。そして、このマタイ版の物語は、そのタイトルどおり、
この女性の「信仰」をメインテーマとして取り上げています。それゆ
え、私たちは、マルコ版の物語をも、この女性の信仰をテーマとした
物語として読んでしまいがちです。が、マルコ版の物語のメインテー
マは、女の信仰ではありません。マルコの他の物語と同じく、この物
語もイエスの神の国の宣教の一環として位置づけられています。この
ことを意識しつつ、物語から聞いてまいりましょう。

 24節前半「イエスはそこを立ち去って、ティルスの地方に行かれ
た。」
 原文では、「そこから」という語が24節の文頭に来るのですが、
イエスはそこから新たな活動に移られます。7:1-23は、宣教の初期、
カファルナウムの地でイエスが宣教活動をされていた頃の出来事で
すから、「そこ」とは、その前6:53-56に記されているゲネサレトの
ことです。イエスは、万を辞しておられた神の国の教会の建設を決
意されてから、十字架への道を早められました。それと同時に、ま
だ神の国、神の支配の到来を告げ知らされていない地への宣教活動
を急がれることとなりました。その一つがガリラヤの更に北にある
ティルス地方への伝道です。かねて予定されていたとおり、イエス
はティルス地方に行かれたのです。
 ティルスという町は、ガリラヤ湖の西北岸から北北西のところに
位置する地中海沿岸の都市です。その起源が分からないくらい古い
町ですが、紀元前15世紀ごろから、フェニキア人の王国として栄え
ました。イスラエルとの関係も深く、ダビデ・ソロモン時代には盛
んに交易が行われていたことが、サムエル記下5:11、列王記上5:15
に記されています。しかし、ティルスは、イスラエルの宗教文化に
とって大きな災いともなりました。北イスラエル王国のアハブ王の
時代(875-852B.C.)、アハブは、ティルスの王、エトバアルの娘イゼ
ベルを妻に迎えました。が、イゼベルは、イスラエルにバアルの神
を積極的に導入しました。アハブ王もバアルの神殿を建設し、バア
ルの祭壇を築き、バアルを拝みました。このイスラエルの危機に、
アハブ王と対立し、イゼベルと対決したのが、預言者エリヤであり、
エリシャです。ゆえに、イザヤ書23:1-9などでは、ティルスの審き
が厳しく預言されています。実際、ティルスは、紀元前572年、新バ
ビロニアの手で、滅ぼされてしまいました。その後、独立を回復し
ましたが、イエスの時代は、ローマの支配の下にありました。

(この項、続く)


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