2010年10月17日

〔マルコによる福音書講解説教〕

第37回「マルコによる福音書6章14〜29節」
(10/02/21)(その4)
 (前号より、続く)

 ところで、それにつけても、すでに起こってしまった出来事なの
に、マルコはこの物語をなぜここに挿入したのでしょうか。それは、
神の国とこの世、地の国の対比です。
 イエス・キリストは十二弟子を宣教に派遣され、終末の救いの共
同体の先駆けである教会の建設に着手され、神の国はいよいよ近づ
いてきました。一方、地上の王国はどうでしょうか、ということで
す。マルコは実際には王ではないヘロデを王と呼んで、地上の王国
を代表させています。見かけは立派かもしれません。金も権力もあ
ります。しかし、なすことは実に汚いこと、わずかの良心も悪の前
に吹き飛ばされ、罪の支配の下にある、これが、地上の王国、ヘロ
デ家の実態なのではないでしょうか。今、ユダヤはこのヘロデの支
配の下にあります。しかし、神の国が近づいています。早く、今直
ちに、地上の王国を捨て去りなさい。これが、イエスがマルコによ
る福音書を通して私たちにお伝えくださっておられるメッセージで
す。

(この項、終わり)


第38回「マルコによる福音書6章30〜44節」
(10/03/07)(その1)

 30節「さて、使徒たちはイエスのところに集まって来て、自分た
ちが行ったことや教えたことを残らず報告した。」

 6:1からの流れを見てみましょう。故郷での宣教(失敗)をきっかけ
に、イエスは教会建設に着手されました。その第一弾として、将来
の教会指導者となるべき十二人を宣教に派遣されました。神の国の
完成は、イエスの宣教開始の時より、より一層近づいているのです。
 本日のテキストは、その十二人が宣教活動から帰ってきて、行っ
たこと、教えたことをイエスに報告するところから始まります。
ここで、十二人は使徒と呼ばれています。十二人は選任されたとき
使徒と名付けられはしましたが(3:14)、マルコによる福音書によれ
ば、イエスのご存命中に実際に使徒としての働きをしたのはここだ
けです。ここで十二人は、イエスの十字架、復活、そして昇天後、
実際に教会が形成され、イエスの十字架と復活の証人として宣教活
動に従事した本当の使徒と同じように、まだ起こってはいない十字
架と復活の出来事を見据えて、教会形成のための働きをしたのです。
 報告を聞かれて、イエスは十二人の使徒としての働きを高く評価
されたに違いありません。そこで、

 31-32節「イエスは、『さあ、あなたがただけで人里離れた所へ
行って、しばらく休むがよい。』と言われた。出入りする人が多く
て、食事をする暇もなかったからである。そこで、一同は舟に乗っ
て、自分たちだけで人里離れた所へ行った。」

 「出入りする人が多くて、食事をする暇もなかったからである」
とあるごとく、宣教活動から帰ってきても多忙であった彼らのため
に、イエスは「あなたがただけで人里離れた所へ行って、しばらく
休む」よう指示されました。
 この「人里離れた所に行って休む」が、実際どのようなことを言っ
ているのか、誤解なきようにすることが大切です。翻訳のせいもあっ
て、私たち日本に暮らす者にとっては、ひなびた温泉にでも行って、
のんびり湯に浸かることしか思い浮かばないかもしれません。とこ
ろが、イエスがおっしゃっておられることは全然違うのです。「人
里離れた所」と訳されている語は、「荒れ野」ないしは「荒れ野の
ような所」という意味の語です。イエスは、「休暇をとって荒れ野
に行きなさい」と指示されたのです。しかし、私たちの中に、休暇
をとってわざわざ何もない荒れ野に行く人はいないのではないでしょ
うか。そもそも、荒れ野に行くことがなぜ休みになるのでしょうか。
 さて、聖書においては、特にマルコによる福音書においては、荒
れ野は何もない所であると同時に、がゆえに、神に出会う所です。
バプテスマのヨハネは、「荒れ野で叫ぶ声」として神の言葉を述べ
伝えました。イエスご自身も、宣教活動に先立って、荒れ野に導き
出され、四十日間に渡って試されました。宣教活動の途中において
も、イエスご自身は、人里離れた所、すなわち荒れ野へ退かれて祈
られました(1:35)。荒れ野は、神から遣わされた者にとって、神と
自分との関係を確認するところ、確かめる所なのです。その、バプ
テスマのヨハネとイエスだけが導かれていた荒れ野へ、初めて十二
人が招かれたのです。今まで、バプテスマのヨハネとイエスご自身
だけがなして来られた「神の国到来の告知」の働きに、十二人も加
わるようになったからです。
 十二人はイエスと共に舟に乗って荒れ野へ向かいました。ところ
が、この荒れ野行きに、招かれていないのに、ついてきてしまった
人々がおりました。

(この項、続く)


(C)2001-2010 MIYAKE, Nobuyuki & Motosumiyoshi Church All rights reserved.