2010年07月11日

〔マルコによる福音書講解説教〕

第31回「マルコによる福音書5章1〜20節」
(10/01/10)(その2)
(前号から続く)

 舟から上がられたイエスを出迎えたのは、悪霊、ダイモニオンに
取りつかれた人でした。マルコで「悪霊」とか「汚れた霊」とか言
われているのは、ダイモニオンのことです。ダイモニオンはギリシ
アでは個人の守り神でしたが、イスラエルでは、異教の神をダイモ
ニオンと呼びました。このダイモニオンは、サタンの手先として人
間などに取り付き、悪さをするのです。サタンとは神に敵対する勢
力の頭です。
 3-5節にイエスを出迎えた、ダイモニオンに取り付かれた人の様子
が詳細に記されています。第一に、この人は墓場に住んでいました。
墓場は死者たちの眠るところに通じるとされていましたから、この
人は死の世界に半分足を突っ込んでいたのです。第二に、周囲の人々
がこの人をつなぎとめておくことができなかったということです。
周囲の人々は、鎖や足枷まで使ってこの人をつなぎとめようとしま
したが、できませんでした。結局、周囲の人々と人間関係を切り結
ぶことができなかったということです。第三に、この人は、夜昼墓
場で叫ぶといった無意味な行動や、石で自分を打ち叩くという自己
破壊的な行動しかとれませんでした。そういう形でしか、自分を表
現できなかったのです。死の世界に半分足を突っ込み、周囲と協調
できず、無意味な、そして自己破壊的な行動を繰り返している、私
たちはそこに自分自身の姿を見るようで、ぞっとします。神に敵対
するサタンの支配下に入った時、人間はこのような姿を露呈してし
まうのです。
 さて、マルコは1:23〜でもダイモニオンに取り付かれた人を登場
させていますが、そこと比較してどうでしょうか。1:23〜ではダイ
モニオンに取り付かれた人の症状が詳しくは説明されていませんが、
少なくとも、会堂にいることはできたようです。5章のダイモニオン
に付かれた人の症状が極めて重いことがわかります。

 6-10節「イエスを遠くから見ると、走り寄ってひれ伏し、大声で
叫んだ。『いと高き神の子イエス、かまわないでくれ。後生だから、
苦しめないでほしい。』イエスが『汚れた霊、この人から出て行け』
と言われたからである。そこで、イエスが、『名は何というのか』
とお尋ねになると、『名はレギオン、大勢だから』と言った。そし
て、自分たちをこの地方から追い出さないようにと、イエスにしき
りに願った。」
 ダイモニオンは霊の世界に生きる者ですから、イエスの本当のお
姿がわかります。それで走り寄ってひれ伏しました。「ひれ伏す」
は「礼拝する」という意味をもつ語です。「いと高き神の子イエス」
という呼び方についても、これは正しい呼び方です。しかし、イエ
スが神の子であられることを知ることが、信仰につながるわけでは
ありません。「苦しめないでほしい」という願いになってしまいま
す。サタンの支配下にある者にとっては、イエスが力を振るわれる
ことが即、自分たちの追放だからです。いつかは戦わねばならない
としても、イエスはこのサタンとの戦いを先延ばしにされるのでしょ
うか。いや、イエスは今立ち上がられます。この人を救うためです。
「汚れた霊、この人から出て行け」と言われて、悪霊祓いを始めら
れました。1:23〜と同じように、神の国、神の支配の開始を宣言さ
れるイエスは、サタンの支配を放ってはおかれません。
 しかし、ここから先は、1:23〜とは違う経過を辿りました。イエ
スはダイモニオンに「名は何というのか」とお尋ねになられました。
相手、特に敵の名を知ることは敵への勝利につながります。創世記
32:28以来、イスラエルではそのように受け止められてきました。
しかし、このダイモニオンは素直には答えません。自分の名を名乗
るかわりに、何と6000人からなるローマの軍団の単位(レギオン)を
もって答えてきました。イエスへの挑戦です。自ら言っているとお
り、俺たちは大勢だ、俺たちをこの地方から追い出せるものなら、
追い出してみろ、というわけです。その地方は、実は地方ごと、ダ
イモニオンたち、サタンの支配下にあったのです。

 11-13節「ところで、その辺りの山で豚の大群がえさをあさってい
た。汚れた霊どもはイエスに、『豚の中に送り込み、乗り移らせて
くれ』と願った。イエスがお許しになったので、汚れた霊どもは出
て、豚の中に入った。すると、二千匹ほどの豚の群れが崖を下って
湖になだれ込み、湖の中で次々とおぼれ死んだ。」
 それでもイエスは悪霊祓いをおやめにはなられません。人を救う
ためです。そこでダイモニオンどもは追放を免れるため、その山の
辺りで、放牧されていた豚の群れに入ることを提案しました。イエ
スが許可をして、そのとおりになりました。しかし、そこ、豚の中
はダイモニオンにとって安住の地ではなかったのでしょう。豚は、
ダイモニオンに取り付かれて狂ってしまったのでしょう。湖に文字
通り猪突猛進し、湖の中でダイモニオンともどもおぼれてしまいま
した。二千匹ほどの豚、すなわち二千名ほどのダイモニオンが絶滅
させられました。

(この項、続く)


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