2008年10月19日

『明日のことはわからない

主たる聖書テキスト: ルカによる福音書 12章13〜17節

 (前略) イエスさまが語られたたとえ話です。あるところに金持ち
がおりました。金持ちというと、現代では、何か悪い事でもして儲
けたのではないかと疑われることがあるかもしれませんが、イエス
様の時代の金持ちは、神様から祝福されて財産を与えられた幸せ者
のことです。

 その金持ち(大富農)の畑がある年大豊作でした。この金持ちに思
いもかけない大収入があったのです。この金持ちは「どうしようか。」
悩みます。皆様でしたらどうなさるでしょうか。パァーと使ってし
まうこともできたでしょう。しかし、この金持ちはきわめて堅実で
した。倉を壊して新しいのを建て、そこに収穫した穀物を全部貯蔵
したのです。これで少なくとも何年かの生活は保証されます。遊ん
だり、趣味に注ぎ込むお金もできました。

 皆さま、この金持ちの対応についてどう思われますでしょうか。
人生経験豊かな皆さまには、いろいろなご意見がおありでしょうが、
それでも多くの方が、「堅実でよい。」と認めざるを得ない対応な
のではないでしょうか。なぜなら、現代でもそこそこの蓄えがあっ
て初めて、安定した日々の生活が保証され、安定した老後が過ごせ
るのでありますから‥

 ところがこのたとえ話の中の神は、この堅実な金持ちに向かって、
何と「愚かな者よ。」と、何とも侮辱的な言葉をもって呼びかける
のです。どこが愚かなのでしょうか。もしもこの金持ちがこの言葉
を直接に聞いたならば、「どうして愚かになのですか。説明してく
ださい。」と食い下がったかもしれません。
 金持ちには見えていませんでした。それゆえ、実は高慢でした。
しかし、イエス様には見えていました。イエス様がおっしゃりたかっ
たことは「明日のことはわからない。」ということなのです。

 たとえば、穀物市場が大暴落して、この金持ちが貯めこんだ穀物
が自家食用以外には以外には何の用途もなくなってしまうかもしれ
ません。あるいはカビが発生して汚染米状態になり、その処分に休
する事態になるやもしれません。
 そればかりではありません。ひょっとしたら明日、いや今日にで
も天災、事故が襲うかもしれません。せっかく新築した倉が倒壊し、
貯めこんだ食糧が全部だめになってしまうかもしれません。火事に
遭うかもしれません。いくら注意していても付け火をされてしまっ
たらおしまいです。

 そして究めつけは命の問題です。私たちが立てる計画、プランは
すべて、明日も今日と同じく命があるという前提の下に成り立って
います。しかし、この大前提は確率論的可能性ではあっても、確か
な保証では全くないのです。
 この金持ちはその夜、帰らぬ人となってしまいました。当然のこ
とながら、せっかく貯めこんだ財産は何の役にも立たなかったので
す。

 しかし、問題はそこから先です。「明日のことはわからない。」‥
このことは、聖書に指摘されるまでもなく、他の宗教でも言ってい
ることですし、私たちだってだれもが、うすうすは感じているはず
です。ある意味わかりきったことを、改めて指摘することで、聖書
は私たちに何を訴えようとしているのでしょうか。明日がないかも
しれないのだから、今を刹那に生きよ、と勧めているのでしょうか。
 ルカ福音書が言い尽くせなかったことを、ヤコブの手紙4:13〜が
補っています。ヤコブの手紙は次のように言っています。「『今日
か明日、これこれの町へ行って一年間滞在し、商売をして金もうけ
をしよう。』と言う人たち、あなたがたは自分のいのちがどうなる
か、明日のことはわからないのです。あなたがたはわずかの間現れ
てやがて消えて行く霧にすぎません。」

 が、ヤコブの手紙には先があります。15節「むしろ、あなたがた
は『主の御心であれば生き永らえて、あのことやこのことをしよう。』
と言うべきです。「主の御心であれば生き永らえて、あのことやこ
のことをしよう。」というスローガンは、古来「ヤコブ的前提」と
言われ、西洋の処世訓の一つとして親しまれてきました。が、主の
御心とは何でしょうか。また、ヤコブ的前提に生きるとはどのよう
な生き方なのでしょうか。

 この問いに答えるためには、創世記2:7の助けが必要です。ここに
は聖書の人間観が示されています。人間は土のチリに過ぎないが、
しかし、神が息を吹き込むことによって人間となったという人間観
です。聖書は「いのちの息の吹き入れ」という表現で、神の愛によっ
て私たちの命があることを伝えているのです。(後略)

(2008/10/19 三宅宣幸牧師)

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