2008年09月07日

『国と力と栄とは、限りなく汝のものな ればなり。(問128〜129)
(ハイデルベルク信仰問答講解説教60 最終回)

主たる聖書テキスト: 詩編 115編1〜18節

 (前略)ところで、頌栄とは先ほども言ったように「神を賛美する」
の意ですが、この世の賞与においてもそうであるごとく、普通は事
が達成されてから成されるものなのではないでしょうか。主の祈り
の頌栄において私たちは「国と力と栄とは、限りなく汝のものなれ
ばなり。」と賛美しているのですが、その頌栄の中身は達成されて
いるのでしょうか。国と力と栄とは、本当に限りなく汝のもの、神
のものとなっているのでしょうか。

 (中略)要約するに、神はイエス・キリストを通して大いなるみ業
を示してくださったにもかかわらず、人間が、私たちが、国と力と
栄を神に帰していないという現実があるのです。その現実の中で、
私たちにどうして神を賛美することができるのでしょうか。

 本日の旧約書、詩編115編を見てみましょう。この詩はイスラエル
の祭りに際し、時期としてはたぶん捕囚期以後に詠まれた詩と考え
られています。特に捕囚期、イスラエルは民族の苦難に直面して、
2節にあるような「彼らの(お前たちの)神はどこにいるのか? いな
いではないか?」という問に直面しました。他国の人から問われ、責
め立てられたばかりではありません。イスラエル自身も困難に直面
して「私たちの神はどこにいるのか?」との疑問を抱き、信仰がふら
ついたのです。

 その時、それにもかかわらず、詩人は神を賛美する信仰に立ち返っ
た、それが詩編115編です。しかし、どうしてそのようなことが可能
だったのでしょうか。その第一は、自分たちの「小ささ」を目をそ
むけることなく見つめることでした。人はそもそも自分を大きく見
せたいと願っています。困難に直面した時ほどそうです。捕囚に直
面した時のイスラエルもそうだったに違いありません。ところが、
少なくとも詩人は困難に直面した時、そうではなく、自分の「小さ
さ」を見つめました。すると逆に、そのような小さな者をも顧みて
くださる神の偉大さが見えてきたのです。神の働きが見えないよう
に見えて、実は業を完成させていてくださったのです。そして、神
の栄光の賛美へと帰着しました。1節「わたしたちではなく主よ、わ
たしたちではなくあなたの御名こそ、栄え輝きますように。」

 すると、それまで神に栄光を帰すことを妨げてきた敵の力が怖く
なくなってきたのです。敵は言います。「お前たちの神は、お前た
ちの困難に際し、何の助けにもならなかったではないか。」しかし、
そう言う者たちが頼りにしているものは、実は物質すなわち偶像に
すぎないのです。物質はやがて滅び去ってしまうものであって、ちっ
とも怖くありません。むしろ、すべての物質の造り主なる神こそ、
恐るべきなのであります。

 神のみ業は困難と見ゆる中にも実は揺るぎなく達成されていたの
であり、こうして詩人は困難の中においてこそ、国と力と栄とを神
に帰し、その守りの中に安ろいだのです。

 ただ、残念なことに、この詩人には、この世の力は神の力にはか
なわない、神の力はこの世の力に勝るという信仰はあったものの、
神の力が死の力に勝るという信仰はありませんでした。(17節)しか
し、主イエス・キリストを、陰府からよみがえらせた神は、神の力
は死の力にも打ち勝つものであることをお示しくださいました。ゆ
えに、キリストを信ずる者には、ヨハネ14章にあるごとく永遠の命
が保証されているのです。ですから、私たちが生きている間だけ
「国と力と栄とは汝のものなればなり。」と賛美できるのではなく、
永遠に賛美できるのです。「国と力と栄とは『限りなく』汝のもの
なればなり。」なのです。永遠に国と力と栄とは神に属し、私たち
は永遠に神の下でくつろぐことがゆるされているのです。その恵み
を受け止めていきましょう。カルヴァンの言うごとく、この頌栄を
もって、私たちは本当の安心を得るのです。

 主の祈りは、主イエス・キリストによって示された祈りとして、
現在の私たちが父なる神に願い求めることがゆるされている祈りで
す。が、同時に、この頌栄が付け加えられることによって、この祈
りは永遠に聞き届けられることが保証される祈りとなりました。ま
ことに、ハレルヤ、アーメンです。

 この祈りはアーメンをもって締めくくられますが、このアーメン
は、私たちが真実にそう信じていますという私たちの信仰の確信を
語るのではありません。神が、この祈りを真実なものとして保証し
てくださるしるしです。心からなる感謝と献身の思いをもって、主
の祈りを祈りつづけて参りましょう。

(2008/09/07 三宅宣幸牧師)

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