『我らを試みにあわせず、悪より救い出
したまえ(問127)』
(ハイデルベルク信仰問答講解説教59)
主たる聖書テキスト: 詩編 103編11〜22節
(前略)自業自得とはいえ、死の恐怖に怯え続ける人間に、神は、
見捨てるのではなく、憐れみをもって臨まれます。本日の旧約書、
詩編103:14では、後半で「わたしたちが塵にすぎないことを、御心
に留めておられる。」と記されているように、神は人が塵に過ぎず、
しかも結局、創造の恵みにもかかわらず、それらしいことしかしな
かったことも承知しておられるその上で、13節「父がその子を憐れ
むように、主は主を畏れる人を憐れんでくださる。」と言われるの
です。この節は、すでに学んだように、神と人間との関係を、父子
(親子)の関係にたとえる、旧約聖書の数少ない用例の一つなのです
が、神はこの情けない人間を親が子をかばうようにして、いやそれ
以上に憐れんでくださるのです。
そしてその憐れみは、イエス・キリストがこの世に遣わされ、私
たちの罪の贖いとして十字架に架けられることによって現実のもの
となりました。キリストは十字架において死んで贖いの業を成し遂
げられ、よみがえられて天に昇られたのです。それゆえ、洗礼を受
けイエス・キリストの十字架の死とよみがえりとに与る者は、やが
ては滅び行く古い自分に死に、よみがえりのいのち、永遠のいのち
をいただくのです。アダムに始まる、いつもいのちの危機にさらさ
れやがては滅び行くいのちではなく、原初神が与えようとされた永
遠のいのちをいただくのです。本日の福音書ヨハネ15:5にあるごと
く、人はキリストと、そしてキリストを通して神とつながっていれ
ば豊かに実を結ぶ−永遠のいのちをいただくことができるのです。
しかし、洗礼を受けて永遠のいのちを保証された者に対しても、
人を神から引き離そうとする蛇の誘惑が襲ってくるのであります。
しかも、原初の時代と異なり、恵みが増し加わった分だけ、蛇の方
も陣容を整えてくるのであります。そのかつてないような巧みな誘
惑に負けてしまったら、アダムの時のように不死性を失うに止まら
ず、永遠の滅びに至ります。しかしながらその誘惑は、私たちが自
分の力では到底太刀打ちできるものではありません。そこで、何と
かその誘惑を免れさせ、永遠のいのちを失うことのないよう、弱い
私たちを救ってください、というのが第三の祈りです。
第二の蛇の誘惑はどのような形で来るのでしょうか。実はその本
質は同じなのです。人間に神の愛を疑わせ、神ならぬものを神とす
る欲求に巧みに誘いをかけてくるのです。実際にどんな誘惑にクリ
スチャンが直面し、しかもそれをどのようにして乗り越えてきたか、
それは語り尽くせないのですが、私たち、日本にある教会に連なら
せていただく者は、23年間日本で伝道に従事され、今年3月にアメ
リカへ帰られたヘイスティングス宣教師の次の問いかけに、耳を傾
けることが求められているのではないでしょうか。
「最後に日本の諸教会と神学者に問いかけます。米国の諸教会は、
聖書の神と国旗を区別することができずに、自分たちを「新しいイ
スラエル」ととる誘惑にあいます。日本の諸教会は「万物の主」を
地元の「氏神」に、「聖なる公同の教会」を「檀家」のような会員
名簿に、信徒の教会役割を分担する「町内会組織」に、そして牧師を
儒教的「君子」になぞらえる誘惑に陥りやすいのです。‥」
もちろん個人の感想です。しかし、その問いかけは正鵠を得てい
ると私には思われるのです。なぜなら、ある信徒の方の信仰歴につ
いてお話を伺ったとき、そのお話が、教会内における人間関係の問
題と、出会った牧師の人間的評価に終始していたことに私は気づい
たからです。もしも教会が人間的に立派とみなされる牧師と、それ
を取り囲む仲間の会となってしまうならば、それがどんなに大きな
有名な教会であったとしてもそれは教会ではありません。神ならぬ
ものを神とする集団でしかありません。教会は私たちの贖い主にし
て救い主であるキリストによって救いに入れられた者、罪人にして
キリストに仕える者の集まりであって、牧師もその一員に過ぎない
のです。
そもそもキリストご自身は、荒野の誘惑において、いかにそれが
伝道に有効と思われても、人々にパンを与えて見せたり、奇跡を行っ
て見せたり、自分でこの世の権力を得ようとしたりすることはなさ
いませんでした。「人間的魅力」によって人を集めることを一切拒
否され、何の報いもない愛の業に励まれたのです。キリストがせっ
かく打ち克たれた誘惑に私たちが易々とはまっていては何にもなり
ません。しっかりとキリストにつながり、しがみつき、振り落とさ
れないようにしがみつづけていかねばならないのではないでしょう
か。
(2008/08/31 三宅宣幸牧師)
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