『我らの日用の糧を、今日も与えたまえ
(問125)』
(ハイデルベルク信仰問答講解説教57)
主たる聖書テキスト: 申命記 8章2〜10節
(前略)こうして、二人は愛の使命を見失うことによって、神の祝
福、愛を裏切り、そしてその結果、祝福のしるしであった豊かな食
べ物をも失うこととなりました。おいしいものがあんなにたくさん
あるエデンの園から追放されることとなってしまったのです。欲望
に生きる人間に祝福は与えられません。自分で食べるものを獲得し
なければなりません。しかし、自分で食物を得るのは並大抵のこと
ではありません。「お前は、生涯食べ物を得ようと苦しむ。お前に
対して、土はあざみを生え出でさせる。野の草を食べようとするお
前に。お前は顔に汗を流してパンを得る。土に還るときまで。」(創
世記3:17〜19)働けど働けどなかなかパンが得られない、罪ある人間
の苦難の人生が始まったのです。
歴史の中で、神が直接、食べ物をもって人を祝福されるという出
来事(奇跡)は、次に出エジプトの時に行われることとなりました。
出エジプトの民が、神の祝福を受けるにふさわしい民に成長してい
たのでしょうか。とんでもありません。長い間エジプトの地で奴隷
生活を強いられてきた、という点については情状酌量の余地はある
としても、苦労してエジプトの地から自分たちを連れ出してくれた
モーセに対して「我々はエジプトの国で、主の手にかかって、死ん
だ方がましだった。あのときは肉のたくさん入った鍋の前に座り、
パンをいっぱい食べられたのに、あなたたちは我々をこの荒れ野に
連れ出し、この全会衆を飢え死にさせようとしている。」(出16:3)
などと不平を言う民です。自分で食べ物を得るために働くことさえ
せず、それでも自分の食欲を満たすことだけは求めるという、楽園
追放後のアダムにも劣る人たちです。こんな連中、見放してしまえ
ばいいのに、と私たちは思うのですが、神は、なんと、この民を顧
み、食べ物を与えるという恵みを先行させてしまわれるのです。そ
の食物が、本日の旧約書、申命記8章に記されているマナです。な
ぜ、そのような、余計とさえ思われることを神はなさったのでしょ
うか。それは、神の愛のゆえ、しかも、創造の時の愛をさらに押し
進めて、愛の使命を担うには程遠い、どうしようもない民を、訓練
して、神の民として整えるためであったのです。神の愛はそこまで
深められたのです。
それゆえ、マナをいただくことは、民にとって、飢えを満たす効
果があるだけではなく、神の祝福を受けるにふさわしい民になるた
めの訓練の場でもありました。ある者は欲を貪ってマナをたくさん
貯めました。ところがあとで升で量ってみたら、多く集めた者も、
少なく集めた者も同じだったというのです。(出16:17〜18)ある者は、
愚かにも、一日に必要な分以上に集め、次の日までマナを取ってお
きました。すると、虫がついて、苦くなってしまいました。(出16:20)
このような痛い体験を通して彼らは神からいただいた食べ物の扱い
方、つまり、その日の自分に必要な分だけを取り、あとは、愛の業
のために我慢することを学んだのです。が、こうして訓練されたは
ずの民も、カナンの地に定着してから、愛のある民となりえたか、
というとそうではなかったところに、人間の罪深さが表われていま
す。
さて、出エジプトのマナ体験と相通ずる供食の奇跡が、子なる神、
イエス・キリストによって再現されることとなります。(マルコ6:30〜
など)ここでも、神から、食べ物が、満腹が与えられたのは、そこに
集まった民が神の祝福にふさわしい民であったからではありません
でした。むしろ、「飼い主のいない羊」(マルコ6:34)でした。神か
ら離れた罪人の集まりだったのです。イエス・キリストはなぜこの
ような人々に食べ物を与えたのでしょうか。それは、創造のとき、
出エジプトの時、と一貫して貫かれてきた神の愛を完成させるため
です。罪人の罪をイエス・キリスト自ら担い、罪人を神の国の食事
に招くためです。つまり、罪人を、キリストのゆえに、神の祝福に
ふさわしい者とみなしてくださったのです。それゆえ、食べ物は皆
に分配されました。そして、残りのカゴはとっておかれました。救
われる者によってなされる愛の業に備えるためです。
(中略)今まで登場してきた人たちと同じく、私たちには愛がなく、
自分のことばかり考えており、神からの祝福としての食べ物をいた
だくにはふさわしくない者です。しかし、イエスは、子なる神とし
て罪の贖いを成就し、私たちにも神に食べ物を求める祈りを祈るこ
とをゆるしてくださいました。しかも、神を「父よ」とお呼びして‥
(後略)
(2008/08/10 三宅宣幸牧師)
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