2008年06月29日

『隣人の家を貪るな(問 113〜115)
(ハイデルベルク信仰問答講解説教51)

主たる聖書テキスト: 出エジプト記 20章17節など


 (前略)このように、貪欲(貪り)は、ただ単にお金や財産に執着す
ることに止まらず、神への反抗であり、隣人への裏切りなのです。
貪りがいかに大きな罪であるか、十戒の光に照らされた時、ますま
す明らかとなってきます。

 そもそも十戒とは、「わたしは主、あなたの神、あなたをエジプ
トの国、奴隷の家から導き出した神である。」という序文から始まっ
ていることからわかるごとく、神からいただいた恵みに感謝するよ
うに、その方法を定めた戒めです。神から出エジプトの恵みをいた
だいたイスラエルの民は、ただ神のみを、畏れをもって、安息日に
礼拝することが求められました。そして、その礼拝には、必ず感謝
の献げものが献げられたのです。(申命記12章など) イエス。キリ
ストの十字架の贖いによって、救いの恵みを与えられたクリスチャン
にも、同じことが求められています。

 しかし、イスラエルの民でもクリスチャンでも、神への感謝の思
いが熱いときは、礼拝は熱心に守られますが、その思いが冷めてま
いりますと礼拝が軽んじられてきますし、当然の結果として感謝の
献げものが献げられなくなってくるのです。そして、神に対する感
謝の思いが廃れて参りますと、神に対する不誠実が起こってくるば
かりではありません。神に感謝しないということは、あれだけ大き
な愛をもって私たちに臨んでくださった神に対しても、畏れを抱か
ず、従順でなく、偽りがあるということですから、ましてや、隣人
同士の関係においては、様々の困難、危険、不安、欺きに直面する
こととなるのであります。第五戒から第九戒までの講解説教でふれ
たとおりであります。そして、この恵みの神に感謝しないという罪
が最後に行き着くところ、それが第十戒で戒められている貪欲、貪
りです。つまり、神からいただいたものを何でもかんでも、一切感
謝することなく私物化してしまう。神のものさえ奪う人ですから、
隣人の物など何のそので私物化しようとしてしまう、そういう貪欲、
貪りに行き着いてしまうのです。本日の使徒書ローマの信徒への手
紙7章で、パウロが人の罪を「むさぼり」という一言で要約してい
るとおり、貪欲、貪りは罪ある人間のなれの果ての姿なのでありま
す。

 さて、第十戒は「隣人の家を欲してはならない。」(出エジプト記
20:17)との、隣人に対する貪欲を戒める戒めです。家とは、所有物
一切のことを指しますので、具体例を列挙した上で、「隣人のもの
を一切欲してはならない。」と繰り返されているのです。ところが
ここでも、新共同訳聖書の翻訳上の問題点に触れないわけにはいき
ません。(中略)「ハーマド」を「欲する」と訳してしまっては誤解
を招きます。「貪る」が適訳です。隣人のものを「ハーマド」する
というのは、となりのウチでテレビを買ったので、ウチも欲しいな
あと思って、頑張ってお金をためて、もっと大きいテレビを買うと
いうようなことを指すのではありません。欲しいと思ったら、実際
に隣の家へ押し入って盗んでくるか、あるいは何らかの手段を用い
て自分のものにしてしまうことを指すのです。こんなことをしたら
隣人関係がうまくいくはずがありません。破壊です。「ハーマド」
は、神からいただいたものを私物化する罪から発するのですが、こ
の罪にまみれた欲望の矛先が隣人に向けられたとき、個人単位では、
あらゆる暴力による支配、国家レベルではいろいろな形での侵略、
いろいろな形での収奪と、今の世界が抱えている諸悪がすべて、そ
こで繰り広げられることとなるのです。

 この罪の行き着くところを目の当たりにして、クリスチャンには
隣人愛の回復に務める義務があります。しかし、現代の世界でそれ
が可能でしょうか。(中略)可能でないと思う人も多いかもしれませ
ん。が、可能なのです。「ハーマド」が神からいただいたものに対
して感謝しないという罪から生じてきたことを考えると、神からい
ただいたものを感謝して受け取り、神に感謝の礼拝を献げ、神に感
謝の献げものを献げること、そこからはじめればいいのです。神か
らいただいたものを神にお返しするとき、それは、「いただいたも
のは自分のものではない。」と宣言したようなものです。欲から解
放されます。「ハーマド」の呪縛から解き放たれます。隣人愛を行
う自由が与えられます。強制されてでなく、自由に、隣人愛へと押
し出されます。イエス様は、隣人愛をすぐに実行しなさい、とおっ
しゃられました。(ルカ10:28など)神から与えられた隣人愛の自由を
行使するとき、神は大いなる祝福をもって臨んでくださいます。

(2008/06/29 三宅宣幸牧師)

(ここに記しましたのはあくまでも一部です。)

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