2008年06月01日

『殺すな(問105〜107)
(ハイデルベルク信仰問答講解説教47)

主たる聖書テキスト: 出エジプト記 20章13節

 本日は出エジプト記20章13節、十戒の第六戒「殺してはならない。」
がテーマです。が、古今東西どの国においても、この戒めは法律と
して取り入れられ、違反者は犯罪者として裁かれてきました。殺人
は、被害者本人、家族を悲しみのどん底に突き落とすばかりでなく、
社会の安寧秩序を根底からゆるがす行為です。ですから、「殺すな」
は、人間が人間として社会生活を営んでいく上で、どうしても守ら
ねばならないルールであることは言うまでもありません。

 しかし、聖書は、この人類にとって「当然守らねばならぬ」戒め
を、神の戒め、十戒の一つとして取り上げています。それはなぜな
のか、それを明らかにした上で、それでは、この戒めを通してクリ
スチャンに何が求められているのか、学んでまいりましょう。まず
最初に、十戒の第六戒、出エジプト記20:13の表現について見てみま
しょう。旧約聖書の原語ヘブライ語では、出エジプト記20:13は、
「ロー、トゥルツァーハ」と記されています。「ロー」は無条件、
永遠の否定を表し、トゥルツァーハは、「あなたは(二人称単数)殺
さないだろう」との意ですので、「あなたは、未来永劫、決して殺
してはならない。」との意味になります。殺しの禁止が、私たち人
間一人一人に呼びかけられていることに注目してほしいのでありま
す。さらに、日本語で「殺す」と訳されている言葉、ヘブライ語で
は「ラーツァーハ」です。日本語で「殺す」というと、人を殺すの
も、動物を殺すのも、あるいは息を殺すのも、野球で一塁走者をア
ウトにするのも、皆「殺す」ですが、「ラーツァーハ」は、人を殺す
ときにだけ用いられる単語です。そして、「殺してはならない」と
おっしゃっておられる主語は神様ですので、この第六戒は、正確に
言うと、神が人間一人一人に(私たち一人一人に)向かって「あなた
(お前、君‥)人を未来永劫、決して殺してはいけないぞ。」と命じ
られた、そういう命令なのです。一般的に殺生(せっしょう)を禁じ
ているのではありません。

 それでは、人が動物の命を奪うことについては、聖書はキリスト
教は、どのように考えているのでしょうか。(中略)
 このように、神は肉食の必要から人間が他の動物を殺すことを認
めています。(自然界の食物連鎖を参照)しかし、それでも、神が造
り給うた自然界の秩序、生態系は決して壊してはなりません。

 さて、私たちは人と人との場合に目を転じてまいりましょう。人
が人を殺すことは、未来永劫決してあってはならぬ、と神は私たち
一人一人に厳しく命じておられます。なぜでしょうか。命は絶対的
に大切なもので、動物の命も、人の命も決して奪われてはならない
からでしょうか。そうでないことは、人と動物の場合から明らかで
す。それではなぜか?

 実は人の命に関しても、神は必要なときにはそれを奪われるので
あります。人が神に背く罪、それを神は決してお見過ごしにはなら
れないのですが、最終的には、神は人の命を奪うことによってお報
いになるのであります。神がこの権限を十分に完全に行使されたの
が、イエス・キリストに対する十字架刑でした。神は、イエス・キ
リスト肩の上に、人類のありとあらゆる罪をおおいかぶせられ、そ
してそれらの罪の処分を、イエス・キリストを十字架で徹底的に苦
しめて殺すということで実行なさったのです。私たちは、イエス・
キリストの十字架刑において、神はすべての命の与え主にして、同
時にすべての命を奪われる権限をお持ちでいらっしゃることを、畏
れをもって覚えるのであります。それでは、そういう神がお定めに
なられた第六戒とは、一体どういう意味、そして私たちに何を求め
ておられるのでしょうか。それは「命第一」のヒューマニズムではあ
りません。人の命を奪うこと、それは神にのみ属す権限であり、人
には決して許されないことだ、ということなのであります。

 ですから、殺人の罪を犯すということは、そこに大きな不幸、そ
して、社会の安寧秩序の破壊を生むというに止まらず、神を冒涜す
る大罪を犯すこととなるのです。クリスチャンは法を守る者として
ばかりでなく、神を畏れるがゆえに、殺人の罪を犯してはならない
のです。

 第六戒をこのようにきちんと定義すると、イエスが第六戒に関し
て通常の殺人だけでなく、なぜ「兄弟に腹を立てる者」などが裁き
を受けねばならないと言われたのかより明確になってきます。(後略)

(2008/06/01 三宅宣幸牧師)

(ここに記しましたのはあくまでも要約(一部)です。説教録音CDにて
全体をお聞きください。)


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