『父と母とを敬え(問104)』
(ハイデルベルク信仰問答講解説教46)
主たる聖書テキスト: 出エジプト記 20章12節
エフェソの信徒への手紙 6章1〜9節
本日はいよいよ十戒の第五戒について、十戒の後半部分の学びに
入ります。十戒は、第一戒から第四戒までの前半と、第五戒から第
十戒までの後半に分けられます。そして、前半には神に関する戒め
が、後半には人に関する戒めが記されています。第一戒から第四戒
までの学びを通して私たちは、神の権威を守るために何をなすべき
か、何をすべきではないか、を学んできました。第四戒まで学んで
きてたどり着いた結論は、定められた主の日に、説教と聖礼典とに
与り、贖いの恵みを受け止めつづける礼拝を守る、ということでし
た。礼拝を守らなければすべてが始まりません。しかし、クリスチャ
ンの生活は、礼拝を守ればあとはどうでもいい、という訳でもあり
ません。いただいた恵みにお答えする、お返しする生活が残ってい
ます。それは、天地創造の時の神のお言葉で言えば、世界を支配す
る(お世話する)お仕事です.イエス・キリストのお言葉で言えば、
「隣人愛」のお仕事です。世界をお世話するお仕事、隣人愛のお仕
事をクリスチャンはどのように進めていったらいいのか、その戒め
が記されているのが、十戒の後半部分なのです。
そしてクリスチャンがこの世で生きていくための戒めの第一が第
五戒「あなたの父と母とを敬え」です。第一の戒めであるというこ
とは、全体を貫く原理であるということです。どうして、第五戒が、
クリスチャンのこの世での生活を貫く原理なのでしょうか。まず第
一に考えられることは、親子関係が人間関係の基本である、という
ことです。人が生れ落ちて最初に出会う人は親です。そして、自分
では何もできない赤ちゃんは、親の愛を受けることによって成長し
ていきます。ゆえに、親子関係は人が人として生きていく上で欠か
すことのできないものであり、子どもの立場から言えば、親を敬う
ということが、この世を生きていく上で基本中の基本の姿勢という
ことになるわけです。親を敬うことができる人は、社会生活をすべ
てうまくやることができるはずです。しかし、十戒はさらに上のこ
とを言っています。それは何かと言えば、親を通して子がいのちを
受け取るのであって、その逆ではありえない、ということです。
「上下関係」です。そしてこの上下関係は、いのちの与え主なる神
と、そしてそれを受け取るだけの人間の関係を指し示しています。
ですから、親を敬うということは神を畏れることに通じるのです。
神を畏れるクリスチャンは、親を敬うことを通して、自分が神を畏
れる者であることを、この世で証ししていくのです。実は「敬う」
(出エジプト記20:12)という語は、単に尊敬するという意味を表わす
に止まらず、「礼拝する」という意味を表わします。親を敬うとい
うことは、神と人との関係、人と人との関係をつなぐ梯なのです。
クリスチャンは、神を畏れ敬う者として、この戒めの深い意味を覚
え、親を、もちろん父親をも母親をも、敬うことを心がけねばなり
ません。もちろん、親の立場にある者が、子が親を敬う気持ちをそ
ぐようなことをしてはならないのは、言うまでもありません。(中略)
イエスご自身も、父ヨセフ、母マリアとの間で30年間子として過
ごされ、親子関係の喜びと難しさとを体験されたことでしょう。イ
エスご自身は、第五戒違反をされることはなかったでしょうが(ルカ
2:51)、母マリアについて言えば、親としての弱さ、罪を露呈するこ
ともあったのではないでしょうか(先週のみ言葉の取り次ぎ)。マル
コ3:31〜においてイエスが何とおっしゃられたかというと、周りに
座っている人を見回して、「見なさい。ここにわたしの母、わたしの
兄弟がいる。神の御心を行う人こそ、わたしの兄弟、姉妹、また母
なのだ。」と言われたのです。このイエスのお言葉は、自然的な親子
関係を否定して、擬制的な(にせものの)親子関係を結ぶように、と
いう意味ではありません。神の御心を行う人、すなわちキリストの
贖いの愛を受け止める人は、まことの母、まことの子となり得る、
正しい親子関係を結べるという喜びの知らせなのです。
なぜなら、イエス・キリストは、この地上の父母とだけでなく、
父なる神とまことの親子関係を結んでいらっしゃるからです。父な
る神は、人と違い、権威をもって完璧に親としての業を果たされま
す。子なる神キリストは、完全なる従順をもって父なる神に仕え、
敬い続けられます。贖いの恵みに与るとき、私たちは、もちろん完
全ではないとしても、親として父なる神に、子として子なるキリス
トに倣う者とつくり変えられるのです。
(後略)
(2008/05/25 三宅宣幸牧師)
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