『空しい誓い(問99〜102)』
(ハイデルベルク信仰問答講解説教44)
主たる聖書テキスト: レビ記 24章10〜23節
マタイによる福音書 5章33〜37節
今日は、第三戒について学びます。この戒めは、クリスチャンに
何をするように、そして何をしないように命じているのでしょうか。
そもそも「あなたの神、主の名をみだりに(=空しく)唱えてはなら
ない。」は、第一戒の偶像礼拝の禁止、第二戒の作像の禁止を踏ま
えて、神の権威を保つようにとの戒めです。神の権威を保つために
はどうしたらよいでしょうか。生きたみ言葉として働かれる神に対
しては、最大限の畏れと尊敬をもって、その名が呼ばれることが肝
要です。そこで、イスラエルの民は、神の名を表す「神聖四文字」
を発音しない、という形で、最大限の畏れと尊敬とを表そうとしま
した。クリスチャンは神のみ子の贖いの恵みをいただいているので
すから、イスラエル人以上の畏れと尊敬をもって神の名を呼ぶべき
です。(中略)
では、私たちクリスチャンが、本当に神の権威を高め、守る行動
をしているでしょうか。ここでは、神の名の濫用が問題となります。
しかし、日本で生活するクリスチャンには、神の名の濫用以前に、
クリスチャンでありながら、必用な時にも神の名を呼ぶことすらし
ない、神の名を無用なものとしてしまう、そういう問題点があるの
ではないでしょうか。日本では、江戸時代にあからさまになされた
キリスト教弾圧、キリスト教禁制が未だに生きています。制度とし
ての信教の自由は、二つの憲法を経て完全に認められるようになり
ました。しかし、人々の心はキリスト教に対して完全な信教の自由
を認めてはいません。人々の心がキリスト教に対して与えた自由は
ごく限られたもの、従来の宗教・社会が無視してきた部分、十分に
担えなかった部分の補いとしてだけです。二例を挙げると、女性の
教育と結婚です。女性の教育は従来の日本では全く無視されてきま
した。その女性の教育を先進的に担ってきたのはキリスト教、キリ
スト教会でした。また、結婚も、個人と個人の結びつきという観念
は日本には全くなく、その願いに答えたのがキリスト教でした。し
かし、日本の社会が、人々の心がキリスト教に与えた自由はそこま
でです。限度を超えることは許されません。社会の中心にクリスチ
ャンが立って、キリスト教の精神に基づいて社会建設に励むなどと
いうことは、日本の社会ではあってはならないことなのです。ゆえ
に日本のクリスチャンは、もし周囲の人々と平和に過ごそうと願う
ならば、分を守って小さく生きる、状況によってはクリスチャンで
あることを隠して生きるのが、賢明でさえあります。このような生
き方をしている日本のクリスチャンにとって神の名は濫用されるど
ころではありません。言うのも憚られる名なのです。
このような日本の社会の中でのクリスチャンの生き様に同情の余
地は大いにあるとしても、神の名はどんどん貶められていきます。
神の名を濫用するどころか、口にさえしなくなり、神の権威を守る
どころか、神をいてもいなくてもいい存在にまで貶めてしまうので
す。また、同僚や友人が神の名を悪し様に言うことがあるかもしれ
ません。こんな時、そういう生き方をしている日本のクリスチャン
は、何も言えずに作り笑いをしているしかありません。が、それは
神の悪口を言うことに加担することとなります。日本で生活するク
リスチャンにとって、この第三戒は、実は鬼門とさえ言える難関な
のです。この戒めは、日本のクリスチャンの弱さ、罪深さを容赦な
く暴露いたします。
それではということで、日本の社会の中で、クリスチャンが多数
派を占めるようになったら、日本で生活するクリスチャンも堂々と
神の名を崇めることができるようになり、また、神の悪口を言うこ
とに加担することもなく、第三戒違反をしなくてすむようになるか
というと、そうはいかないでしょう。もしクリスチャンが多数派と
なったとしたら、その途端、「神の名の濫用」の問題が起こってく
るのは目に見えています。神の名さえ出せば信用してもらえると思っ
て、うその誓いをしたり、自分の利益のために神の名を利用したり、
…この第三戒に直面して、クリスチャンは、少数派だろうが、多数
派だろうが、本当には神の名を崇めることができない、実はいつも
神の名を貶めることしかしていない罪人であることを暴露してしま
うのです。私たちは表面的な冒涜の罪は免れたとしても、神の裁き
には耐えられません。
このように第三戒を到底守ることのできない私たちなのですが、
それでも神はキリストの贖いによって罪ある私たちにも、神のみ名
を崇めることをお許しくださいました。(後略)
(2008/05/04 三宅宣幸牧師)
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