2008年03月23日

『鍵の務め(問83〜85)
(ハイデルベルク信仰問答講解説教39)

主たる聖書テキスト: マタイによる福音書 16章13〜20節


 復活の朝、どの福音書も、イエスの墓へ出かけていったのが女性
の弟子だけであったことを記しています。その女性たちも、主イエ
スの復活を告げられただけでは、恐れを抱くのみでした。たとえ、
贖いの業としての復活を受け止めたとしても、それだけでは私たち
は恐れ入るばかりです。

 その弟子たちに、イエスは復活の姿をもって現れてくださいまし
た。もしも罪の贖いが恩着せに止まるのだとしたら、弟子たちの負
債はますます増すだけで、弟子たちと神との距離はさらに遠のくば
かりです。ところが、よみがえりのイエスが弟子たちの近くに姿を
お見せになったということは、弟子たちは完全に赦された、これか
らはもう罪の償いを求められることはないとの宣言をいただいたと
いう意味です。弟子たちは復活の主に出会って、罪赦された人生、
悔い改めの生活を生きるご許可をいただいたのです。

 そして、ありがたいことに、この赦しの恵みは、イエス・キリス
トに直接お会いし、復活のイエスに出会った弟子たちにばかりでな
く、教会を通して私たちにも与えられつづけています。でも、欠け
の多い教会が、主イエスの代わりに、罪の赦しなどという畏れ多い
権限をどうして行使することができるのでしょうか。

 本日お読みした福音書は、主イエスが直接教会の建設を指示され
たところです。主イエスの「あなたがたはわたしを何者だというの
か」との問いに対して、シモン・ペトロが「あなたはメシヤ、生ける
神の子です。」と答えたのに対し、主イエスが「わたしはこの岩(ペ
トロ)の上に教会を建てる。」とおっしゃられたところです。が、こ
の物語について、カトリック教会は、主イエスはペトロ(自身)を土
台として教会を建てられたと解釈してきました。それゆえ、ペトロ
を初代教皇とする代々の教皇が教会を守ってきたのです。一方、プ
ロテスタント教会では、この箇所を、主イエスはペトロの信仰告白
の上に教会を建てられた、と考える傾向が強くあります。しかし、
どちらの解釈もピントを外れています。なぜなら、教会の土台たる
べきペトロはこのあと重大な罪を犯しました。そんなペトロですか
ら、この時の信仰告白も実は口先だけのものでした。重大な罪を犯
した人を土台として、あるいは口先だけの信仰告白を土台として教
会が建ち得るでしょうか。建ちません。

 主イエスがペトロを土台として教会を建てると言われたのは、ペ
トロが指導者としてふさわしいからでもなく、その信仰告白を評価
されてでもありませんでした。ペトロは罪人の一人に過ぎず、その
信仰告白も口先だけのものでした。にもかかわらず、主イエスが、
そのペトロに代表される、罪人である弟子たちを用いて教会をお建
てになられるのです。教会のまことの土台、そして首はキリストで
す。ペトロを始めとする教会は、自分の権限ではなく、全地を支配
したもう主イエスの権限を行使するのです。それゆえ、陰府の力に
も負けません。私たちは、主イエスに権限を委ねられた教会におい
て、主イエスの力と出会うのです。

 さらに、主イエスは「あなたに天の国の鍵を授ける」と言われま
した。主イエスの権威によって、罪を赦す権威が教会に委ねられ、
それゆえ、私たちは、教会において主イエスにある罪の赦しの恵み
に出会うのです。

 ところが、鍵は普通は固く閉じるために使われる道具です。カト
リック教会は、歴史のある時期、この閉じる権限を最大限に活用し
ました。教会が赦されぬ罪人と定めた者を、天の国で鍵が閉ざされ
る(つなぐ)前に、教会の手で処刑してしまいました。人のなすこと
には必ず間違いがあります。宗教改革者ルターも、時代と状況が少
し違っていたら、処刑されるところでした。

 プロテスタント教会も、あらわな悪徳に対しては、閉じる(つな
ぐ)責任が教会にあることを自覚しています。戒規を行使することが
あります。神の神聖さが冒されないため、教会内に悪い習慣が蔓延
しないためです。しかし、その場合でも、教会が裁くのではなく、
裁きは神に委ねられます。戒規に触れた人には、聖晩餐は遠慮して
いただく、説教のところまで戻っていただいて、罪の赦しに至る悔
い改めを待つのです。開くために閉じるのです。閉じることよりも、
プロテスタント教会は、鍵を解く(ひらく)ことに教会でなければな
しえない使命を覚えています。み言葉の宣教を通して、主イエス・
キリストの十字架と復活による罪の赦し、そして新しい悔い改めの
人生の始まりを告げ知らせ、聖礼典を通して実際に罪の赦しに与か
らせるのです。教会のみ言葉の宣教を通して、主イエス・キリスト
による罪の赦しの宣言をいただきましょう。

(2008/03/23 三宅宣幸牧師)

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