2008年03月02日

『パンとぶどう酒(問78〜79)
(ハイデルベルク信仰問答講解説教37)

主たる聖書テキスト: 出エジプト記 12章21〜28節
          コリントの信徒への手紙一 10章14〜22節
          ヨハネによる福音書 6章41〜59節


 宗教改革の時期は、当然のことながら、カトリックとプロテスタ
ントとの対立がもっとも厳しかった時です。その大きな論争点、論
点の一つが、聖餐がどのような形でなされるべきか、ということで
した。

 宗教改革の運動は、1517年、ルターがヴィッテンベルク城の城門
に贖宥に関する95か条の提題を掲げたところから始まります。最初
問題とされたのは贖宥状でした。しかし、問題は贖宥状そのものに
止まりませんでした。贖宥状を発行する、カトリック教会の考え方
そのもの、人間が救われるためには罪の償いのための業も必要であ
る、という教えに問題があることを察知したルターは、人が救われ
るのは、業によるのではなく信仰のみによるという、いわゆる宗教
改革の三原理のうちの一つ「信仰のみ」を打ち立てることによって、
カトリック教会と訣別することとなりました。

 プロテスタント教会としては、「信仰のみ」という原理に立つ限
り、従来のカトリック教会で行われてきた礼拝(ミサ)と同じ礼拝を
行うわけにはいきません。それで、ルターは、説教と聖餐という、
プロテスタント教会でおなじみの礼拝形式を打ち立てることとなる
のですが、とりわけ聖餐に関しては、従来のカトリック教会とは全
く違う形で行われることとなりました。それが、現在プロテスタン
ト教会で一般に行われている、パンとぶどう酒を信者がいただく、
という方式です。

 キリストのからだを表わすパンと、血を表わすぶどう酒をいただ
く聖晩餐の式は、そもそもは、主イエス・キリストの贖いの業を思
い起こすためのもの、記念として守られてきました。使徒パウロに
よって伝えられた、聖餐の制定の言葉(Tコリント11:25)にある通り
です。本日の旧約書、出エジプト記12:21以下で、イスラエルの民が
過越祭を守るのは、主の過越の出来事、すなわち過越の犠牲を思い
起こすためである、と定められているのと全く同じです。パンを食
し、血を飲むことによって、主が私たちの罪の赦しのために献げら
れた犠牲を思い起こし、血を飲むことによって、主が私たちを救う
と約束してくださった契約を更新するのです。

 ところが、カトリック教会では、この聖晩餐を2C.頃から「エウカ
リスティア(感謝)の祭儀」と呼ぶようになり、その場でキリストの
犠牲が献げられて、それを感謝をもって受け止める式とされるよう
になってきました。パンとぶどう酒はその場で献げられる犠牲とし
てのキリストそのものというわけです。そこにあるパンとぶどう酒
がイエス・キリストご自身となるために、化体説がその裏づけをな
すこととなります。司祭の言葉によって、パンがキリストのからだ
そのものに、ぶどう酒がキリストの血そのものに、本当に変化する
(実体変化)とカトリック教会では考えます。それゆえ、実体変化後
のぶどう酒をこぼしてしまったら、それはイエス・キリストの血そ
のものをこぼしてしまったこととなるので、執り成しが必要となる
のです。

 こうして、イエス・キリストのからだと血そのものになったパン
とぶどう酒とを神に献げ、つまり十字架の出来事が繰り返され、そ
こでその献げられたキリストのからだを信徒が感謝をもって受ける
というわけです。

 宗教改革者たちは、「信仰のみ」の原理に立ち、パンとぶどう酒
を神に献げるという部分を止めました。なぜなら、第一に、パンと
ぶどう酒を献げるということは、罪の赦しを得るために業をなすこ
ととなるからです。また、もし、パンとぶどう酒に罪を赦す力があ
るなどと考えるとしたら、それは呪物崇拝、本日の使徒書Tコリン
ト10章で使徒パウロが警告している偶像崇拝にすらなりかねません。
(問80の答え)さらにもっと大きな問題は、その場でキリストの犠牲
が繰り返されるということは、キリストの十字架を無にすることに
なりかねないということです。キリストの罪の贖いは一回限りで、
しかも十分です。「信仰のみ」ということは、キリストが十字架上
で成就された救いに与る「信仰」によってのみ救われる、というこ
とです。

 信者がいただくパンとぶどう酒についても、宗教改革者は実体変
化を否定しました。私たちがいただくキリストのからだと血は、十
字架上で献げられたキリストのからだと血で十分です。本日の福音
書ヨハネ6章に示されたごとく、十字架で献げられたキリストのから
だと血とに与りましょう。

(2008/03/02 三宅宣幸牧師)

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