『もはや裁かれることなく』
(ハイデルベルク信仰問答講解説教28)
主たる聖書テキスト: ヨハネによる福音書 3章16〜21節
今日は「罪のゆるし」がテーマです。私たち人間の罪はイエス・
キリストの贖いにより既に赦されたはずなのに、なぜもう一度「罪
のゆるし」を取り上げるのでしょうか。それは、終末の審判の時に
赦されるかどうかという問題なのです。
世界は神の天地創造によって始まりました。始まりの時があれば、
いつか終わりの時があることは想定されていましたが、最初は終末
が特に意識されることはありませんでした。しかし、イスラエルの
歴史で言えば、カナン定着、王国建設と目標が達成されるあたりか
ら雲行きが怪しくなってきました。この世界に神の支配が実現する
はずのところが、実際に起こったのは背教と腐敗でした。そういう
中で、預言者が終末の審きを口に出し始めます。「まさに終わりの
時が来たのだ。」(哀歌4:18)単に王国の終わりの時というだけでな
く、主なる神が直接裁かれる「怒りの日」が来るのです。(エゼキエ
ル書7:3)そして、この終末の出来事は、イエス・キリストの到来と
して実現しました。ところが、その審きは思いもかけない形で実現
されました。ご自分自身に神の怒りの矛先を向けられ、罪人に対す
る神の怒りを一身に負われたのです。このイエス・キリストの贖い
の業により、人類に終末の審きを免れる道が開かれました。そして、
この福音が行き届くまで、神は猶予期間を設けられました。完全な
贖いはなされたので、猶予期間とはいえ、人々はもはや終末の審き
を気にしなくてもいいはずでした。
ところが、再び雲行きが怪しくなってきました。14世紀、ヨーロ
ッパでの出来事です。きっかけはペストの流行、発生から三年間の
間にヨーロッパの全人口の三分の一が死んだと言われています。こ
の、当時は原因不明の、神の罰としか思えない病気に対し、悪いこ
とには、人々に贖いの恵みを伝え、慰めを与えるべき教会が腐敗の
真っ最中でした。その上、ペストの患者を看取り、ペストで亡くな
った信者を葬る司祭に多くの感染者と死者が出ました。人々に罪の
贖い、終末の救いを告げる力も人もいなくなっていました。人々は、
このまま贖いの恵みに与ることなく、終末の永遠の裁き、有罪判決
に直面するのではないか、とひどく恐れました。終末の裁き、有罪
判決をどうしたら免れることができるか、さまざまな試みがなされ
ました。が、すべて無駄でした。が、唯一、道が開かれたのが聖書
を読み、聖書の中に指し示されたキリストの贖いによる救いを得る
こと。こうして、聖書に立つ教会を再建する宗教改革が始まるので
す。教会は、終末の審判に堪えるキリストの贖いの恵みを再獲得し
ました。
ハイデルベルク信仰問答は、問1「生きるにも死ぬにもあなたの
ただ一つの慰めは何ですか。」という問いから始まります。これは
非常に難解な問です。特に「死ぬにも」の部分、死自体、慰めに反
するのではないでしょうか。しかし、ハイデルベルク信仰問答(初版
1563年)の背景にあったのは、ペスト流行という現実の中で、死への、
終末の裁きへの恐怖でした。この恐怖に直面して、終末の審きを免
れる道はあるのか、これは切実な、どうしても解決しなければなら
ない問題でした。問1の答えは、慰めが「ある」ということをはっき
りと言っています。そして、キリストの贖いの業、十字架上での犠
牲、と辿ってきて、今や問56に来て、「終末の審きにおいて、人は、
キリストの贖いゆえ、有罪とはされない」という最終結論をいただ
いたのです。問1の答えは、問56にあったのです。キリストの贖いの
恵みは、現在の罪、さらに、これから犯すかもしれない罪をも贖う
力があります。さらに終末の審きにおいても、「もはや決して裁き
にあうことのないようにしてくださる。」キリストの贖いの業は、
終末の審判における有罪判決の取り消しにまで、効果が及ぶのです。
ゆえに、私たちは、終末の審きを恐れることなく、生きるにも死ぬ
にも慰めをいただいて生きることができます。
しかし、信仰問答を通して、「慰めがあるのだ」ということを学
んだら、慰めがいただけるのかと言うと、そうではありません。ヨ
ハネ福音書に言う如く、イエスを信じる者が救いに入れられます。
イエスは神と一体であられますから、イエスを受け容れ信じる者は、
永遠の命に与りますが、そうでない者は、神を信じない者であるゆ
え、自分に裁きを招く、つまり、既に有罪判決とされ、終末の裁き
を免れません。
贖いの恵みは自動的に染み込むものではありません。イエスを信
じ、救いを受け止める者として、慰めをいただく歩みを歩んでまい
りましょう。
(2007/12/30 三宅宣幸牧師)
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