『神の右に座す』
(ハイデルベルク信仰問答講解説教23)
主たる聖書テキスト: エフェソの信徒への手紙 1章20〜23節
最初にキリストという言葉の意味について考えてみましょう。キ
リストはヘブライ語ではメシヤ、「油注がれた者」の意で、神に特
別の職務に召された者のことを言います。が、旧約聖書でメシヤと
いう言葉が用いられているところを見ると、大部分は王について言
われているので、多くは、神によって王として召された者を指す言
葉でした。
しかし、僅かですが、祭司が「油注がれた者」として登場すると
ころもあります。(レビ記4:3など) また、さらに僅かなのですが、
イザヤ書61:1では、「貧しい人に良い知らせを伝えるために」(1節)、
主がわたしに油を注ぎ‥、と記されており、預言者としての使命を
与えられた者を「油注がれた者=メシヤ」と呼ぶことがあることも
わかります。そこでカルヴァンは、キリスト(=メシヤ)という言葉
に、王と祭司と預言者と三つの意味があると主張するのです。(「キ
リスト教綱要」第二編第15章)
確かに、イエスは「宣べ伝えるとともに、自ら実行された」とい
う意味で完全な預言者であられるといえるかもしれません。また、
イエスご自身を人類の罪の贖いの供え物として献げられた、という
意味で、イエスは、永遠の大祭司と言えるでしょう。とはいえ、イ
エスがキリスト(=メシヤ)であるという時、カルヴァンも最も強調
しているように、王であるという意味においてなのです。
確かに、イエスはこの地上の生涯においても王となることを期待
されました。しかし、イエスは王となることができませんでした。
できなかったどころか、十字架上で死刑囚としてあえない最期を遂
げられたのです。それにもかかわらず、なぜ、イエスが王という意
味でキリストと言えるのか、それはその十字架の死が、全人類の罪
の贖いのための死であり、しかもその死を全うしたがゆえに、つま
り死と罪の力への勝利に終わったがゆえに、その時点ではじめて、
王といえるようになられたということなのです。イエスが死んだ後、
しかもよみがえられて天に挙げられた後に、まことの王としてのキ
リストとなられたのです。
使徒信条の第二部は、「子」に対する信仰告白です。そして「主は
聖霊によりて宿り」からイエスの生涯が始まります。誕生、十字架、
復活、昇天と続き、「神の右に座したまえり」までがイエスの生涯、
そして、次回の「かしこより来りて、生ける者と死ねる者とを裁き
たまわん。」は将来の期待と、私たちは受け止めてきました。しか
し、復活と昇天は、弟子たちも共に体験した出来事であったのに対
し、つまり、弟子たちが証人となった出来事であったのに対し、天
に挙げられたイエスが神の右に座しておられることは、一体だれが
見たのでしょうか。まず、福音書を見てみると、明らかに後から付
加されたマルコ16:16を除いて、イエスが「神の右に座した」とか、
「座しておられる」という記述はどこにもないのです。つまりだれ
も見ていないのです。が、正確にいうと二人の人が見ていると言え
るかもしれません。一人はステファノ。イエスの名のゆえに石打ち
の刑にあって殉教した折に、死の直前、「天がひらいて人の子が神
の右に立っておられるのが見える」と言ったと使徒言行録7:26に記
されています。もう一人は見者(けんじゃ)ヨハネ。正確にいうと
「神の右に座した」ではないのですが、天上の礼拝において、神の
右の手から小羊イエスが巻物を受け取ったのを見た、と記していま
す。(黙示録5:7) が、二人とも直接見たのではなく、その場面を幻
の中に見たのです。
目撃証言がないにもかかわらず、なぜ使徒信条は「イエスが神の
右に座す」と告白するのでしょうか。そもそも「神の右に座す」と
は、だれが何のために言い出したのでしょうか。それは、本日の使
徒書エフェソ1:20-21に見られる如く、主イエスに出会い、主イエス
を信じ、救いに与った最初の弟子たちから出た信仰告白の言葉です。
天に挙げられたイエスが神の右におられるのか、左におられるのか、
それはだれにもわかりません。しかし、本日の旧約書、詩編110編に
あるごとく、イスラエルでは、「王の右」とは、宰相、すなわち王
から全権をゆだねられた者が座る位置でした。だから、「神の右に
座す」とは、天上に挙げられたイエスが、今、実際に神と共に、神
と同じ権限をもって、全世界、全宇宙を治めて治めておられるとい
うことをあらわす象徴言語、信仰の言葉なのです。この霊の支配は、
受け止める者がいて明らかとなります。それゆえ、教会こそ、キリ
ストの支配されるところとならねばなりません。教会は神の求めを
まず第一とすべきところです。
(2007/11/25 三宅宣幸牧師)
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