『『父なる』神』
(ハイデルベルク信仰問答講解説教9)
主たる聖書テキスト: ローマの信徒への手紙 8章18〜25節
本日より使徒信条の中身に入っていきます。その第一項は「我は
天地の創り主、全能の父なる神を信ず。」です。たった一言ですが、
私たちは、神の、「父なる神」としての創造のみ業を信ずることを
告白します。しかし、私たちは、聖書で言う異邦人です。異邦人に
とって、創造の恵みはどういう意味をもつのでしょうか。与えられ
た聖書テキストから学びましょう。
創世記1章によれば、神は天地万物を無から、何もないところから
創造されました。この物語は、天地万物の一つとして、神の手によ
らないものはない、ということを私たちに伝えています。人間につ
いても然り。神の恵みによって創造されました。そして、最初の人
アダムは、すべての人間の祖となったのです。
ところが、創世記12章になりますと、神は、その全人類の中から、
なぜか、アブラハムという人だけをお選びになります。そして、
「‥わたしが示す地に行きなさい。わたしは、あなたを大いなる国
民にし、あなたを祝福し、あなたの名を高める」と約束されました。
創造の神は万物を創られましたが、創りっぱなしではありませんで
した。人類の場合で言えば、土地と子孫とを与えて、保護されるこ
とを、神はお示しになったのです。神の言葉どおり、アブラハムに
も土地と子孫とが与えられ、子孫も、艱難の中でも、結局はカナン
の土地へ帰り着きました。アブラハムの子孫であるイスラエルの民
にとって、神は何者でしょうか。イスラエルの民にとって、神は、
天地万物の創り主にして、全人類の創り主、そしてとりわけ、イス
ラエルの創り主です。神がこのようにお方であられることは、神が
イスラエルを保護してくださった救済の歴史から明らかです。つま
り、神が創造主にていましたもうことは、イスラエルにとっては、
腑に落ちること、素直に信仰をもって受け止められることなのです。
しかし、イスラエル以外の異邦人にとって、神は何者でしょうか。
神は天地万物の創り主にして、全人類の創造主、ここまでは、異邦
人にとっても真実です。また、たとえ異邦人であっても、被造物と
して神の恵みに気づいたなら、神を畏れ、礼拝すべきことも真実で
す。しかし、異邦人は、神の選びの民と違って契約が与えられてい
ません。創造に当然伴うべき保護の約束が与えられていません。も
ちろん、例外もあります。が、例外はあくまで例外であって、異邦
人は、創造主を信仰をもって受け止めるところからは、遠いところ
にたたされていました。
が、この状況はイエス・キリストによってすっかり変えられまし
た。イエス・キリストは神から遣わされてこの世に降り、「まこと
の神」としてすべての人の償いをなし、「まことの、正しい人」と
してすべての人の罪の罰を負ってくださいました。このことによっ
て、神に選ばれた民イスラエルでさえなしえなかった罪の贖いが成
就しました。そして、それは、すべての人、イスラエルも異邦人も
問わないすべての人のための贖いでした。この贖いによって、イス
ラエルと異邦人の隔ての中垣が取り去られました。そればかりでは
ありません。贖われた民が、神のことを「父なる神」とお呼びでき
るようになりました。イスラエルの民にさえ許されなかった呼びか
けです。神のことを「わたしの父」と本当にお呼びできるのは、イ
エス・キリストだけです。しかし、神は罪の贖いを完成させること
により、罪によって隔てられていた神と人との隔ての中垣も取り払
ってくださり、人にも、神を「わたしの父」とお呼びすることを、
ゆるしてくださいました。それゆえ、私たち、主イエス・キリスト
の立てたもうた教会に召し集められた者は、異邦人であっても、
「我は天地の創り主、全能の父なる神を信ず。」と告白することに
より、神を父とお呼びする恵みにあずかり、父なる神が与えてくだ
さる創造の恵みと保護の約束を、感謝をもって受け止めるのです。
ところが、神を「父なる神」とお呼びすることは、すべての被造
物に許されていますが、現実には、すべての被造物は、「肉の制約」
のゆえ、うめき苦しんでいます。「被造物がすべて今日まで、共に
うめき、共に産みの苦しみを味わっている」(ローマ8:22)のです。
最大の苦しみは、その中で「父なる神」の創造の愛が見えなくなっ
てしまうことです。しかし、ここからがクリスチャンの本領発揮で
す。苦しみの中にあっても、贖いの恵みをとおして、神を「父(アッ
バ)」とお呼びすることを許されています。苦しみに勝る「父」とし
ての神の愛を信頼、期待できます。それゆえ、希望を捨てません。
困難の中でも、祈りつつ、希望をもって歩みましょう。
(2007/07/22 三宅宣幸牧師)
※このページに関するご意見・ご質問は三宅牧師までお寄せ下さい。miyake@aksnet.ne.jp