『まことの正しい人にして神』
(ハイデルベルク信仰問答講解説教6)
主たる聖書テキスト: ローマの信徒への手紙 5章12〜21節
前回の最後の問い(問15)で、私たちは、「完全な償い」をなした
もうお方(仲保者)は「まことの、ただしい人間であると同時に、あ
わゆる被造物にまさって力ある方、すなわち、まことの神でもあら
れるお方」である、と学びました。しかし、仲保者はなぜ、神であ
ると同時に「まことの、ただしい人間」でなければならないのでし
ょうか。本日は、まず最初にこの疑問について、本日の使徒書ロー
マの信徒への手紙5:12-21から学んでまいりましょう。
さて、最初から人類に罪が蔓延していたわけではありません。罪
とは、神の命令違反です。命令がまずあり、最初は命令は守られて
いたはずです。最初「一人の人」が命令違反をした、その一人の人
の行為から、命令違反、罪が蔓延するのです。その最初の命令違反
をした人が「アダム」でした。「横断禁止」の標識(命令)が出ている
道路で考えてみましょう。最初はこの命令が守られてだれも横断し
ませんでした。ところがある「一人の人」が、標識の出ているのを知
りながら、横断をしました。ここに横断禁止違反という罪が始まり
ました。すると、今度は、命令違反をした人を見て、「渡ってもい
いのだろう。」ということで、次から次へと命令違反、罪が行われ
るのです。「一人の人」の罪がすべての人の罪を引き起こし、すべて
の人が有罪となるのです。この無法状態を回復するにはどうしたら
いいでしょうか。一つは法の権威を回復することです。このルール
は守らねばならないという事が周知徹底される必要があるでしょう。
が、事はそれだけではすみません。横断禁止という罪に対して、た
とえ大罪ではなくとも、罰が下されなければならないのです。
まして、神の命令違反の場合、神性の回復がもとめられせるに止
まらず、罰が下される必要があります。神の命令違反の罰は何でし
ょうか。それは死です。それゆえ12節はこう言います。「一人の人
によって罪がこの世に入り、罪によって死が入り込んだ。(そして)
死はすべての人に及んだ。(なぜなら)すべての人が罪を犯したから。」
この「有罪判決」が生きている限り、人は死という罪の罰に怯えな
がら生きていかねばなりません。
無罪の宣告が必要です。しかし、それを獲得するのは、きわめて
困難、いや不可能です。なぜなら、本当に罪を犯してしまっている
からです。しかも、それは刑法上の罪以上の罪、罰を負い得ない罪
なのです。負い得ない罰を負って、人はどうして生きていけるでし
ょうか。ところが、ここでパウロはとてつもない解決方法を神から
示されます。「一人の人」によって罪がこの世に入り込んだのだか
ら、「一人の人」がその罪の罰を受けて、処刑されたらどうか、つ
まり神の呪いによる死の罰を受けさせたらどうか、ということです。
でも、一体誰が「一人の人」として罪の罰を背負い得るのでしょう
か。すべての人が罪を犯しているのですから、誰もが自分の罪の罰
だけで処刑されて然るべきであり、人の罪の罰を負う余力などあり
ません。が、もしも、罪を犯さなかった「まことの、ただしい人」
がいるとするならば、その人は「一人の人」として、他のすべての
人の罪の罰を負いうる資格があるのではないでしょうか。しかし、
そんな人がいるのでしょうか。また、いたとしても、その人が他の
すべての人の罪の罰を負って処刑されようと願い出るなどというこ
とがあるのでしょうか。普通はありません。しかし、一人だけ、ふ
さわしい人、そして、ありえないことをなそうとするお方がいらっ
しゃった。それが、人としてのイエス・キリストだったのです。こ
のイエス・キリストの代理としての処刑が、15節に言う「恵みの賜
物」です。その恵みの中身は壮絶です。たった一人の「まことの、
ただしい人」の犠牲によって、処刑されねばならない人間全部に無
罪の宣告がなされたのです。新共同訳、16節の「無罪の判決」とい
う訳は、意味の強調しすぎかもしれません。協会訳が「義とする結
果」と訳しているように、本当は有罪なのですが、有罪としない、
無罪とみなす、そのような無理難題である宣告が、「まことの、た
だしい人」キリストの犠牲のゆえになされました。
すべては、人の罪から始まりました。そして、神の怒りは、罪を
許しておきません。自分の努力で神の怒りから逃れようとすること
は、空しいことです。神からの救いを待つしかありません。お手上
げ状態の人間に、罰をも負債をも負いうる方として、神はキリスト
を与えてくださったのです。こうして贖われて、「愛の負債」を負っ
た私たちは、どのように生きたらいいのでしょうか。
(2007/07/01 三宅宣幸牧師)
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