『人間の堕落』
(ハイデルベルク信仰問答講解説教3)
主たる聖書テキスト: 創世記 3章1〜24節
今日は問6から入ります。人間の罪と悲惨さは、どこから来るのか、
という問題です。神は、そもそも人間を罪を犯さないような者とし
てお造りになったらよかったのに、そんな疑問が私たちの頭を過ぎ
ります。その疑問が問6となっています。「それでは、神は人をその
ように邪悪で倒錯したものに創造なさったのですか。」です。が、
答えはNoです。神はそもそも人間を良い者としてお造りになったの
です。人間の罪は、神から出たものではなく、人間自身から出たも
のです。問答がそのように答える根拠を、創世記3:1〜24を中心とし
て学んでいきましょう。
創世記3章の堕罪の物語の前に、創世記2章の創造物語は、主なる
神が土の塵で人を形づくり、その鼻にいのちの息を吹き入れられた
ところから始まります。そして、エデンの園を設け言われました。
「園のすべての木から取って食べなさい。ただし、善悪の知識の木
からは、決して食べてはならない。食べると必ず死んでしまう。」
(2:16-17)この命令は何を意味するでしょうか。それは、主なる神が
人間に自由を与えたということです。人はどの木からも取って食べ
ていいのです。しかし、主なる神が与えた自由はただの自由ではあ
りませんでした。自分で責任もって選び取る自由です。禁令がある
ことはそのことを示しています。人は禁令を守るかどうか、自分で
選び取って実行しなければならないのです。選び取る自由を与えら
れたということが、人が「神のかたち」(創世記1:26)に造られたと
いうことの意味です。人間は自分の意思で、被造物として神に従う、
そういう自由を与えられたのです。礼拝する自由を与えられたので
す。神との関係がうまくいけば、人間関係、自然との関係もうまく
いきます。人はよき伴侶を与えられて幸せに暮らし、土を耕すこと
によって自然と共存しました。神は、人間を、自主的に礼拝する存
在、よき者としてお造りになったのです。
ところが、神と人間との良好な関係はあっという間に崩れ去って
いきます。きっかけは蛇の誘惑でした。しかし、問答は蛇に一切触
れていません。蛇の誘惑はきっかけでしかなく、それにどう反応す
るかは、人間の自由だからです。が、蛇は何を言ったのでしょうか。
蛇は、「最も賢い」(1節)とあるごとく、知恵はありましたが、神へ
の信頼はありませんでした。そして、人に「疑い」と「勘繰り」を
教えました。しかし、信頼のない疑いと勘繰りは、不信を助長する
だけです。しかも直接神に問わない独断。こうして、神の命令を本
気で受け取らないことを教えたのです。
しかし、蛇の役割はそこまで。蛇は禁令を破るようになどとは一
切言いませんでした。人(女)を禁令破りに走らせたのは何だったの
でしょうか。「その木はいかにもおいしそうで、目を引き付け、賢
くなるように唆していた。」(6節)とあるごとく、おいしいものが食
べたい、きれいなものが欲しい、賢くなりたいという欲望が直接の
動機となったのです。そして、男も勧められるままに食べてしまい
ました。
二人は食べてどうなったでしょうか。蛇の解説によれば、善悪(す
べての知識)を知って、神のようになるはずでした。そのとおりにな
りました。しかし、その知識は信頼を犠牲とした知識でした。信頼
を欠いた知識は、その知識を用いて他者を支配することを求めます。
人はこのとき以来、人を支配したいという欲望とともに、人に支配
される恐怖に怯えることとなります。自分の弱み(裸)を隠すことに
汲々とするのです。そこへ神がお出でになられました。もはや支配
関係のみになってしまった人間は、神に恐怖しか覚えません。神の
前から身を隠すしかないのです。しかし、神の知の前では、全てが
暴露されてしまいます。弱みを追及された時、人はどうしたでしょ
うか。自分の身を守るため、罪をなすりつけたのです。こうして人
と人との信頼関係も崩れ、人は支配関係だけに生きる者となってし
まいました。
なんとなく食べたかもしれません。しかしそれは背きの罪であり、
神との信頼関係を壊しました。一旦神との信頼関係が崩れると、あ
とは堕落の一途。15節以下は、神の裁きでもあると同時に、支配関
係のみになってしまった人間のなれの果てでもあります。そして、
この罪は遺伝します。今、私たちは、堕落の真っ只中にあるのです。
善に対して無能な私たちはどうしようもないのですが(問8)、主な
る神は意外にも、エバを「すべてのものの母」として祝福し、二人
に皮の衣を着せてくださいました。主なる神の助け(救い)を乞い求
めでまいりましょう。
(2007/06/10 三宅宣幸牧師)
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