2007年06月03日

『人間の悲惨さについて
(ハイデルベルク信仰問答講解説教2)

主たる聖書テキスト: ローマの信徒への手紙 3章9〜20節


 本日は問3から学びます。「何によってあなたは自分の悲惨さに気
づきますか。」との問いに対して、「神の律法によってです。」と
いう意外な答が与えられています。今日はイスラエルの信仰の歴史
に触れながら、この問答について学びましょう。

 まず、律法とは何か、律法の求めるところは何か、ということで
すが、それは問4にあるごとく、イエス様が見事に要約してください
ました。(マタイ32:34-40)律法とは、神との関係が愛の関係である
ように、隣人との関係、これも愛の関係となるように、そのように
定められた戒めです。

 それでは、この律法はいつから、なぜ定められたかといえば、そ
れはモーセの時代にさかのぼります。エジプトの地で奴隷として苦
しんでいたイスラエルの民は、神の一方的恩恵によって、エジプト
を脱出することができました。その恩恵に答えて、民が守ることを
約束したのが、十戒をはじめとする律法です。律法とは、単なる押
し付けの戒めではありません。神からいただいた一方的恩恵への応
答です。それゆえ、神を愛し、隣人を愛するのです。

 さて、イスラエルの民は、この律法を守ることができたでしょう
か。カナンの地に定着した途端、主を棄て、他の神々にひれ伏しま
した。(士師記2:10-12)早速、神を愛する戒めが破られました。その
後、イスラエルの民は、預言者たちの警告にもかかわらず、律法違
反を繰り返します。そして、ついに587B.C.バビロン捕囚(国の滅亡)
を迎えました。なかなか悔い改めなかったイスラエルの民も今度ば
かりは堪えました。律法違反の罪を深く悔い、祭司階級を中心に、律
法をきちんと守ることによって神に喜ばれる人(義人)になろう、と
固く決意して、国の再建に取り組みました。ユダヤ教の成立です。律
法はきちんと守られねばなりません。たとえば安息日律法にしても、
主を礼拝するため、してはいけない仕事を確定しなければいけませ
ん。それで、39種類のしてはいけない仕事の禁令を定めました。さ
らに、安息日に移動してよい距離など、条件法を細かく定めました。
法の専門家としての律法学者の登場です。

 しかし、どこかがおかしいのです。ある人が、ある掟に関しては
一生律法違反をしなかったとしても、その人が神を愛したことにな
るのでしょうか。外面だけでなく、内面も律法を守っていなければ、
神を愛したこと、律法を守ったことにはならないのではないでしょ
うか。そのことに気づいた人が、ユダヤ人の中にいました。エッセ
ネ派です。それでこの人たちはどうしたかというと、それでは全身
全霊をもって律法を守ろうと決意し、荒野にこもって、生涯を律法
一筋にひたすら守る生活へと赴いたのです。

 さて、それでは同時代のユダヤ人であるパウロは、どのように考
えたでしょうか。パウロが長い苦悶の末たどり着いた結論が、問5
に実に簡単にさらっと記されています。「あなたはこれらすべての
ことを完全に行うことができますか。」「できません。」
パウロも実に真面目なユダヤ教徒でした。律法を必死に守りました。
しかし、エッセネ派と同じことに気づいた、と思われるのです。
ローマの信徒への手紙3:10-18では、旧約聖書の詩編を中心とするい
くつかの聖書箇所からの自由な引用がなされていますが、特に13-14
節では、外面的に律法を守ったとしても、内面が汚れていてはどう
しようもないことが記されています。外面のみに集中する人は結局
どうなるでしょうか。自分は律法を守っていると考えるがゆえに、
「神への畏れがない。」つまり瀆神の罪を犯していることになるの
です。しかし、ここから先がパウロとエッセネ派と違うところです。
律法を守ることに行き詰まりを覚えていたときに、パウロはエッセ
ネ派ではなく、復活のキリストに出会ったのです。その結果、律法
を厳密に守って、その結果神に喜ばれる義人となることを目指す道
ではなく、神の側から、主イエス・キリストの贖いの死によって義
人とされる、そういう神の愛を知ったのです。そして、エッセネ派
のように自分の努力が不十分だったと考えるのでなく、見当はずれ
だった、律法を守って義人となろうとしたこと自体が罪だった、そ
のことに気づいたのです。「律法を実行することによっては、だれ
一人神の前で義とされないからです。(20節)」しかし、彼がキリス
トとの出会いによってそこまで深い認識に到達したのも、神の前に
正しくありたいとの思いがあったからです。私たちにも、そのパウ
ロの求めが求められています。

(2007/06/03 三宅宣幸牧師)

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