2007年03月04日

『偽りの霊と真実の霊

主たる聖書テキスト: ヨハネ第1の手紙 4章1〜6節


 私は、かつてキリスト教学校で教えたことのあるひとりの卒業生
から「自分はキリスト教の勉強をしたけれども、キリスト教の教え
では私が悩んでいた心と体の問題を解決することが出来ませんでし
た」と言われ、大変ショックを受けたことがありました。そして、
私自身、牧師、伝道者としてキリスト教の一番肝心な問題のひとつ
である人間の心と体の問題を十分に伝えることが出来ず、信仰に導
けなかったことを悔やんだことがあります。

 さて、今日の聖書テキスト(ヨハネの手紙1)が示す問題は、キ
リストの体(人性)を巡る問題です。ヨハネの手紙が書かれた当時、
教会では「反キリスト」と呼ばれる人たちの問題があり、人々の信
仰を揺り動かしていました。彼らは「イエス・キリストが肉となっ
て来られた(4章2節)」ことを軽んじ否定していました。

 キリストが肉となって来られたという表現は少し分かりにくいか
も知れませんが、説明的に言えば、神とともに天上におられたキリ
スト(救い主)が、(ナザレの)イエスという一人の人間(肉)存
在として生まれ、救い主として地上の生涯を歩まれたということで
す。そして、著者ヨハネから「反キリスト」と呼ばれる人たちはこ
のことを否定したということです。
 そして、さらにヨハネはこのような主張をする人たちを「偽預言
者(偽って神の救いの真理を曲げる者)」と呼び、彼らに惑わされ
ることのないように警告を与えています。
 また、ヨハネは彼らの主張の背後には「反キリスト、偽りの霊」
の力が働いていると考え、かねてからこの霊がくることが分かって
いたが、いま来ているのだとも言い、偽りの信仰に惑わされること
のないように注意を喚起します。

 では、ヨハネは何故「反キリスト、偽りの霊」に従うなと言うの
でしょうか。それは、「イエス・キリストが肉となって来られた(4
章2節)」ことを否定してしまったら、人間にとって本当の救いが
なくなってしまうことになるからです。

 私たち人間は観念のなかに生きているのではなく、自分の体を持
って生まれ生きています。まさに体によって生きているのです。そ
して、その体の中に心(魂)があり心と体は決して切り離すことの
出来ないものです。また、私たちは神様の前に生きるときに頭の中
だけで神様のことを考え生きているのではありません。体、生活を
持って生きているのです。

 従って、罪を犯す時、それは神様を心で裏切り背くと同時に、具
体的な生活としても罪の姿が露になってくるのです。また、私たち
は実生活の中で心を病み、悩み苦しむとともに、体を痛め病んで行
くこともあります。そして、こうした現実の中で全人的な救いを、
心も体も全てを含んだ救いと安心を必要としているのです。そして、
もし私たちを救ってくださる方(キリスト)がおいでになるのだと
したら、自分から遥か遠くにおられただ大変だと言ってくださるの
ではなく、実際に私たちの傍らに立ち、その全てをご存じでいてく
ださるならば、どれほど嬉しいことでしょうか。また安心なことで
しょうか。

 ヘブライ人への手紙2章17節以下には「それでイエスは、神の
御前において憐れみ深い、忠実な大祭司となって、民の罪を償うた
めに、すべての点で兄弟たちと同じようにならねばならなかったの
です。事実、御自身、試練を受けて苦しまれたからこそ、試練を受
けている人たちを助けることがおできになるのです。という言葉が
ありますが、この言葉はまさに「イエス・キリストが肉となって来
られた(4章2節)」ことの大切な信仰的意味を示しているのでは
ないでしょうか。

 こうして考えて来ると、偽りの霊に従うことは、神様の与えてく
ださるイエス・キリストによる救いを否定することであり、キリス
トの生涯、とりわけ十字架の死と復活を通して与えてくださる神様
の愛から全く切り離されてしまうことに他ならないということが理
解出来るかと思います。

 ヨハネは、教会の人々に対し、偽りの霊に従うのではなく、真実
の霊に従うように勧告します。今日の私たちもまたヨハネの言葉を
聴いてイエス・キリストがこの世界においでになった意味を深く思
い、私たちの救いのために十字架のご生涯を歩んでくださったこと
を感謝し、キリストのご生涯を大切に覚えて行きたいと思います。
そして、これから行なわれるキリストの体と血に与る聖餐式に正し
い信仰を持って臨みたいと思います。

(2007/03/04 石井道夫牧師)

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