2006年12月06日

『神のために力を合わせて働く

主たる聖書テキスト: コリントの信徒への手紙1 3章5〜9節


 シャロームというヘブライ語があります。「平和、平安」と訳さ
れることが多いのですが、この語はただ表面的な争いのない状態や
内面の安心といった意味に止まらず「すべてのものが充足している。
満ち足りている」という意味を持っているといわれます。換言すれ
ば、シャロームとは一人ひとりの人間において、また社会のあらゆ
る領域において満ち足りている関係、状態があるということができ
ます。ユダヤの人々は日常生活の中でこの言葉を挨拶に用いお互い
の安否を確認しました。

 今日の礼拝は、キリストの誕生を待ち望む「待降節」最初の主日
礼拝と同時に教団の定めた「社会事業奨励日」でもあります。この
関連で説明すればシャロームという言葉は、社会事業が目指すとこ
ろの真の「基本的人権」の十全な実現だと考えてもよいかと思いま
す。

 ところで、明治初期に日本で伝道を始めた欧米のプロテスタント
教会は、教会を設立するだけでなく、日本各地においてキリストの
福音に根ざした教育・医療・福祉に生きる人たちを多く起こしまし
た。そして、当時の日本社会に大きな役割を果しました。

 また、キリスト教社会事業の働きは、これに与った人たちに「生
れや育ち」に関係なく、その人を一人の掛け替えのない人格として
尊び愛する世界(共同体)があるということを知らせるに至りまし
た。

 日本のキリスト教界が、明治以来社会事業に携わる人たちを多く
輩出して来たことは多くの知るところですが、中でも生徒や患者、
援助を必要とした人たち、また同僚から愛され慕われた人がありま
した。そして、その人たちのことを考えてみると共通点があるよう
に思えます。それは彼らが皆「仕える」ことに徹底していた人たち
であるということです。換言すれば自分の働きをいたずらに誇示し
ない、自分中心に生きず「他者とともに生きる」という真の意味で
謙遜な態度の持ち主であったということです。

 コリントの教会に宛てた手紙の中で、パウロは教会の中に指導者
を巡って争いがあったことを伺わせています。「わたしはアポロに、
わたしはパウロに」という教会の信者の言葉がそれを表しています。
しかし、パウロはそのような教会の状況の中で「わたしは植え、ア
ポロは水を注いだ」と言い、お互いの働きの重要さを認めながら
「しかし成長させてくださったのは神です。ですから大切なのは植
える者でもなく、水を注ぐ者でもなく、成長させてくださる神です。
植える者と水を注ぐ者とは一つです。それぞれが働きに応じて報酬
を受け取ることになります。わたしたちは神のために力を合わせて
働く者であり、あなたがたは神の畑、神の建物なのです。」と教会
における人間の働きを教えています。(3章7〜9節)

 ところで、立教大学をはじめとする立教学院の創立者となった聖
公会のウイリアムズ主教は「道を伝えて人を伝えず」という言葉を
残し、キリスト教教育に従事する者の正しい心構えを教えたと言わ
れますが、このウイリアムズ師の言葉は、学校に限らず全てのキリ
スト教の社会事業に従事する者にとって大事なことを示唆していま
す。

 また、インドのカルカッタで貧しい人たちとともに生きたマザー・
テレサは「自己からの解放」という祈りの中で次のような言葉を記
しました。
「主よ、私は信じきっていました。私の心に愛がみなぎっていると。
でも、胸に手を当ててみて本音に気づかされました。私が愛してい
たのは他人ではなく、他人の中に自分を愛していた事実に。主よ、
私は思い込んでいました。私は与えるべきことは何でも与えていた
と。でも、胸に手を当ててみて真実がわかったのです。私の方こそ
与えられていたのだと。主よ、私は信じていました。自分が貧しい
者であることを。でも、胸に手を当ててみて本音に気づかされまし
た。実は思いあがりと妬みの心に私が膨れ上がっていたことを。主
よ、私が自分自身から解放されますように。主よ、お願いいたしま
す。私の中で天の国とこの世の国々とがまぜこぜになってしまう時、
あなたの中にのみ真の幸福と力添えとを見いだしますように。」

 今日からクリスマスまで待降節の歩みが始まります。クリスマス
は、罪の力に支配され、神を信じ人を愛することを忘れてしまい、
ついには自分のことしか考えなくなった、信じなくなった私たち罪
人を救うためにキリストがこの世に神から遣わされたことを心から
喜び、心からの悔い改めを持って新しく生きることを決心し、キリ
ストを「救い主として礼拝」する日です。

 今年も主イエスのお出でになるその日までお互いに礼拝を守りな
がら愛のわざ、愛の生活に励みたいと思います。

(2006/12/3 石井道夫牧師)

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