2006年11月05日

『あなたはこれを信じるか

主たる聖書テキスト: ヨハネによる福音書 11章7〜27節


 先日学校の同窓会が東京であり、プログラムの最初に「物故者」
の紹介がなされました。そして、全員で黙祷が捧げられました。そ
の後、挨拶に立った私は、この学校は黙祷を通して、生死を超えて
人を「覚える」ことを大切にしている学校であるということを自ら
表明しているという話をしました。
 「自分がいつまでも覚えられている」これは人間にとって一番嬉
しいことではないでしょうか。また反対に自分が忘れられるという
ことほど悲しく虚しいことはありません。

 このような経験もあります。神学校を卒業して間もない頃でした
が、教会で葬儀がありました。事務室が関係者の控え室になってい
たのですが、亡くなった方の会社の同僚と思われる方が何人かこら
れて休んでおられた時のことです。ある一人が「人間死んでしまっ
たらおしまいだよな」といいました。居合わせた人は一様に本当に
そうだなという顔をしたのです。死んでしまえばこれまで生きてき
た全てのことが無に帰してしまう。もちろん存在そのものも。
一生懸命生きても最後に意味がなくなってしまう人生であったとし
たら何と虚しいことでしょうか。
 また、死は人を孤独にします。換言すれば、交わりが絶たれると
いうことです。繋がりが無くなってしまう。これが、死が人にもた
らすものです。

 今日はラザロの死にマルタとマリアの姉妹が悲しんでいる記事を
読みました。肉親の死を前にして姉妹はどんなにか辛く悲しい思い
を持ったことでしょうか。マルタとマリアの周囲には多くの人々が
姉妹を慰めるために集まっていたとありますが、深い悲しみに沈む
姉妹には慰めの声も届かなかったのではないかと思います。
 そしてマルタとイエスの間に「復活問答」がはじまります。この
中でマルタは終わりの日の復活があることを信じていることを言い
表していますが、この表明に対してイエスは「わたしは復活であり
命である。わたしを信じる者は死んでも生きる。生きていてわたし
を信じる者は決して死ぬことはない。このことを信じるか。」(ヨ
ハネ11章25,26節)と言われました。
 このイエスの言葉の中に「わたし」という言葉が繰り返し出てく
ることに注目したいと思います。それは、私たちの生と死をイエス
という方を中心に考えるということです。

 これまで私たちは説教の中で人間の横の関係で生と死を考えてき
ました。しかし、人間の生と死を考える時に、本当に考えておかな
ければならないことは「イエスとの関わりにおいて」ということで
す。
 「わたしは復活であり命である」と言われるイエスは、十字架の
イエスご自身です。そして、イエスは私たちの罪の(赦し)のため
に十字架についてくださった方なのです。本当ならばわたしたちは
罪のために神に滅ぼされ無に帰しても仕方がない者なのです。
 しかし、そのような者でさえもイエスは憐れんでくださり、ご自
身を信じる者に命を与えてくださるのです。そして、死を超えてあ
る神との永遠の命の交わりへと招いてくださるのです。こうして、
イエスを通して生と死を考えるとき、わたしたちはまったく新しい
人生、絶望から希望へ、悲しみから喜びへと向かう人生に導かれる
ことになるのです。

 メメント・モリ(汝、死すべきことを覚えよという意味)という
言葉があります。これは、中世の修道院で朝夕の挨拶に使われた言
葉だそうですが、修道院の人々はこの挨拶を交わす度に、人間の生
が当たり前のように連続してはいないこと。また人生はいつも死と
隣り合わせであることを深く自覚したことでしょう。そして、神の
憐みによって新しい一日が与えられたことを心から喜んで日ごとの
業にいそしんだことと思います。
 メメント・モリという言葉はこうして考えると、人間にとって最
も謙遜で積極的な人生態度を生み出す言葉であると言えるのではな
いでしょうか。
 こうした生き方は「終末的生き方」と呼ぶことが相応しいかと思い
ます。私たちは終末の到来が何時なのか知るよしもありませんが、
それぞれに与えられた人生をそして命を精一杯生き抜きたいと思い
ます。

 この世の生活は本当に厳しく辛いものがあります。しかし、イエ
スの「わたしは復活であり命である」というお言葉を自分に与えら
れた言葉として受け止め、心から信じるとき、そこには必ずイエス
の力が働き、厳しさと辛さに勝る希望と喜びが沸き溢れてきます。

(2006/11/5 石井道夫牧師)

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