2006年09月03日

『受け入れる者

主たる聖書テキスト: マルコによる福音書 12章1〜12節


 本日の週報には、聖霊降臨節第14主日礼拝−振起日礼拝−新しい
人間という言葉が上から順に示されています。この順序は私たちが
この礼拝をどの様に位置づけたら良いのかを教えています。それは、
聖霊の助けによって、心と体を新しくしてこれからの秋の日々を歩
もうではないかというということです。

 さて、本日の説教の主たるテキストは、マルコ12章の「ぶどう園
と農夫のたとえ」です。このたとえで、主イエスはイスラエル民族
の歴史における指導者たちの不従順を厳しく指摘しておられます。

 また、旧約聖書朗読のテキストは、イザヤ書5章1節以下の「ぶ
どう畑の歌」と呼ばれる箇所でしたが、このテキストのようにイス
ラエルでは、神様とイスラエルの関係がぶどう園の主人と農夫の関
係に、あるいはイスラエルがぶどう園にたとえられました。

 従って、このたとえを聞いた人たちは、その意味がよく分かった
と思います。また「垣を巡らし、搾り場を掘り、見張りのやぐらを
立て」という造りは、当時のぶどう畑の様子を反映しているといわ
れます。

 たとえの大筋はつぎの通りです。ぶどう園の主人がぶどう園を農
夫たちに貸して旅に出ましたが、収穫の時期になり主人は僕を遣わ
して収穫を得ようとしました。しかし、農夫たちは収穫を差し出す
どころか主人が送った僕を袋叩きにして追い返し、また次に送られ
た僕を殺し、そしてまた次の僕も殴り殺すというように次々に亡き
者にしてしまいます。

 そこで、主人は最後に、最愛の息子ならば農夫たちは大事にして
くれるだろうと考え送り出しますが、逆に農夫たちは相続権を持つ
息子だということで自分たちがぶどう園の所有者となるべく、息子
を殺し、亡骸をぶどう園の外に投げ出してしまいます。

 こうなれば農夫たちのものです。もうぶどう園を自分のものだと
いう者がいなくなったのですから。このたとえは、自己の利益のた
めならば、たとえ主人の最愛の子でも簡単に殺してしまうという人
間の欲の深さを思わせます。

 ところで、このたとえのブドウ園の主人は神様です。そして農夫
はイスラエルの指導者。また主人がぶどう園に遣わした僕たちは、
神から言葉を託された歴代の預言者たちです。神様はイスラエルの
歴史の中で預言者たちの働きを通してご自身の意思をお示しになり
ました。そして、預言者たちは繰り返し神に忠実に生き、隣人を愛
するように教え、そこに信仰の実があることを明らかにされたので
すが、残念なことにイスラエルの指導者たちは、預言者の言葉を聞
いて悔い改めるどころか、かえって彼らを迫害し殺したりしました。

 イザヤ書5章のぶどう園の歌には「よいぶどうが実るのを待った。
しかし、実ったのは酸っぱいぶどう酒であった」という嘆きの言葉
がありイスラエルの人々がいかに不信仰な生活を送ったかが述べら
れています。

 さて、主人から遣わされた僕が預言者たちであったとしたら、最
愛の息子とは誰でしょうか。それは、イエス・キリストに他なりま
せん。「神はかつて預言者によって、多くのかたちで、また、多く
のしかたで先祖たちに語られたが、この終わりの時代には、御子に
よってわたしたちに語られました。神はこの御子を万物の相続者と
定め(ヘブライ人への手紙1章1,2節)」。

 神様は、最後の言葉として主イエスをこの世にお遣わしくださり、
イスラエルをご自身のもとに帰らせようとされました。しかし、祭
司長・長老・律法学者は、主イエスを受け入れようとせず、かえっ
て主イエスを十字架につけて殺してしまったのです。こうして、主
人である神様の計画は農夫たちによって葬りさられたかのようにな
りました。農夫たちの狡賢さの勝利です。

 けれども、神様のご計画は人間の欲よりも深かったのです。神様
は、主の十字架によって人間の罪を赦し、主を死から新しい命によ
みがえらせることによって、罪とその結果としての死に勝たれたの
です。

 10節に「家を建てる者の捨てた石、これが隅の親石となった。こ
れは主のなさったことで、わたしたちの目には不思議に見える。」
という詩編118編22、23節の引用があります。この言葉はま
さに主の死と復活の意味を、人間を罪から救うという神様のご計画
の視点から言い当てているのではないでしょうか。

 人間の目には不思議に見えることも、聖霊の助けをいただいて見
るとその本当の意味がわかるようになります。主イエスのご生涯も
まさにそのようなものです。

 振起日となった今日の聖霊降臨節第14主日。聖霊よって新しくさ
れ、神様のご計画を喜びと感謝を持って受け入れ、生きて行きたい
と思います。

(2006/09/03 石井道夫牧師)


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