2006年07月09日

『神の導きの歴史

主たる聖書テキスト: エステル記 4章10節〜5章8節


 本日読まれた使徒言行録13章13節〜25節は、ピシディア州
アンティオキアの会堂(ユダヤ人の教会)でパウロが安息日にした
説教の一部分ですが、26節以降の説教を含めてみると、パウロは
この時の説教でイスラエルの歴史を語るとともに、イエスの生涯と
りわけ十字架の死と復活に言及しています。そしてパウロは、この
イエスこそ旧約以来イスラエルが待望した「救い主」しかも、罪の
赦しを与える救い主として会堂の人々に告げたのです。

 しかし、この説教を聞いたユダヤ人の中には十字架のイエスが救
い主であるということを受け入れることができない人たちも多くあ
りました。そしてそのような人々はパウロの活動を迫害するように
なります。

 けれどもパウロは迫害にひるむことなくひたすら「イエスは救い
主=キリスト」であるとして伝道を続けました。それは、イエスを救
い主としてこの世界にお遣わしになった神様の救いのご計画の中に
生かされ働くことをゆるしていただいているという自覚と決意から
出たものであったといってもよいと思われます。

 そして、このパウロの働きはやがてユダヤ教との違いを明らかに
し、キリスト教独自の道を歩ませることに繋がって行きました。そ
れは丁度母体から生まれ出た新生児が母親との自然の絆である「へ
その緒」を切り離されることによって、一人の独立した存在として
人生を歩み始めることに似ているということができます。

 二つ目の聖書は、マルコによる福音書6章14節〜29節の洗礼
者ヨハネがヘロデによって殺害される箇所です。ヨハネは、イエス
の紹介者としての使命を与えられ、神の国の到来が近いことを告げ
知らせ人々に罪の悔い改めの洗礼を授けますが、領主ヘロデ(アンテ
パス)の不誠実な生き方を厳しく批判したため殺害されてしまいます。

 正しい言葉と行動をとったにもかかわらず、生命を落としてしま
うということは誠につらいことでありますが、ヨハネはひるむこと
がありませんでした。むしろ堂々と神と人の前で生き抜くことで使
命を果たし終えたといってもよいのではないかと思われます。

 三つ目の聖書は、エステル記4章10節〜25節です。エステル
記の概略は次の通りです。

 ユダヤ人のモルデカイの幼女となったエステルは、ペルシャ王ク
セルクセスのお后に選ばれ、誰にもまして王から愛され、王は「エ
ステルの祝宴」を開きます。モルデカイが王宮の門の前に座ってい
ると、二人の高官が王を倒そうと共謀していました。モルデカイは
エステルをつうじてこれを王に知らせ、二人は処刑されます(1〜2
章)。

 クセルクセス王はアガク人ハマンを高い地位につけ、王はハマン
に跪いて敬礼するように命令を出していましたが、モルデカイはハ
マンに跪くことはしません。ハマンはモルデカイに腹を立て、ユダ
ヤ人全員を殺害することを計画します。ハマンは王にユダヤ人への
中傷を述べ、王の名による勅書を作らせます。そして、ユダヤ人全
てが殺されることが決まり、殺害の準備が進められて行きます(3章)。

 この計画を聞いた、モルデカイはじめ多くのユダヤ人は「荒布を
まとい、灰の中に座って断食し、悲嘆に暮れます。エステルはここ
ではじめて事の真相を知ろうとします。しかし、エステルは王に報
告することはできないとモルデカイに答えます。しかし、モルデカ
イは「この時のためにこそあなたは王妃にまでなったのではないか」
とエステルに言います。

 エステルは、「スサのユダヤ人を集め3日3晩断食するように。自
分も女官と断食をし、その後王に会いに行く。」と返事をします
(4章)。

 そしてエステルは「このために死ななければならないのでしたら、
死ぬ覚悟でおります。」と決意を語るに及びます(16節)。

 エステルのこの決意は、自分が今置かれている立場と働きの意味
を、神の前に今一度問い直したことから出たものであると言うこと
ができるかと思います。エステルは「この時、この事のため」にこ
そ自分があると悟り、自分の思いを超えたところに神の導きを受け
止めることができたのです。

 エステル、また、パウロやヨハネのように私たちもまたそれぞれ
の人生において神の導きがあろうかと思います。その導きがいつど
のように明らかになるかは分かりませんが、必ず神の導きがそれぞ
れに相応しい仕方であることを信じて、その時その場を一所懸命に
生きて行きたいと思います。

(2006/07/09 石井道夫牧師)

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