『占いの霊に取りつかれた女性』

主たる聖書テキスト: 使徒言行録 16章16〜24節


　私たちの信仰が、「ただのクリスチャン」状態であったとすると、
まず第一に、困難が襲ってきたときに、「こんなはずではなかった」
と撤退してしまいます。しかし、撤退は、困難のときばかりではあ
りません。神を知らぬ民の存在、悪霊の働きにも、恐れをなしてし
まうのです。それでは、このような第二の危機にどう対処したらい
いのか、本日与えられました使徒書テキスト、使徒言行録16章から
学んでまいりましょう。

　まず第一に、｢神を知らぬ民｣の存在です。パウロの場合も、出エ
ジプトの民と同じく、しばしば「神を知らぬ民」と遭遇いたしまし
た。とりわけ、第二伝道旅行の途中、初めてギリシア本土に足を踏
み入れた時はそうでした。パウロはその時、どのような心境だった
でしょうか。使徒言行録は、パウロの心境について記していません
ので、推測するしかないのですが、パウロでも、不安と緊張感に押
しつぶされそうになっていたかもしれません。しかし、パウロは、
その不安と緊張感に押しつぶされて不信仰に走る事はなかった。そ
れはなぜか。それは、パウロに、「これは、神から与えられた使命
である。」という召命感があったからです。使徒言行録は16:6〜で、
パウロが幻を見て、その中で、マケドニア人(ギリシア人)が、「わ
たしたちを助けてください。」と言う夢を見たということを伝えて
います。神を知らぬ土地です。しかし、そこには、福音を待ってい
る人がいる、自分はそのために召されたのだ、そのような神からの
使命感が、マケドニア人も含め、すべての人を救うという神の約束
を見失わない信仰を支えたのです。そして、パウロは、夢のとおり、
その神を知らぬ民の中に、リディアという、まことの神を求めてい
る女性を見出し、そして、このリディアの信仰を基として、ここに
フィリピの教会が形成されたのです。

　第二に、「悪霊の跋扈」です。霊について注釈を加えますと、霊
とは、日本語ではお化けのことを意味します。しかし、聖書の言う
霊は、お化けのことではありません。力を意味します。ゆえに、聖
霊とは、神の力が働いている状態を指し、悪霊とは、悪の力、サタ
ンの力が働いている状態を意味します。神を知らぬ民のいるところ、
神の見えないところには、悪霊が跋扈しているのです。パウロが上
陸したフィリピもそうでした。悪霊は、女奴隷に取りつき、占いを
させていたのです。人々は、危機になると占いに頼りますから、多
くの人が、この女性のところに行って、占ってもらったことでしょ
う。占ってもらって自由になったか…　そうではありません。悪霊
のとりこになって、占いなしでは、生きていけなくなってしまうの
です。そして、その裏には悪徳商人がいまして、この女性の場合に
も、主人たちが、占いを金儲けの手段にしていたのです。弱みに付
け込まれて、なけなしの金をはたいて、苦しんでいた人もいたかも
しれません。

　パウロとその一行は、この有様を見て、どう思ったでしょうか。
悪の霊の力が働いて、自分たちは叶わないと思ったでしょうか。そ
うは思いませんでした。しかし、それでも彼らは人間に過ぎず、霊
の力の前には無力です。そこでどうしたか。人間にはできませんけ
れども、神は彼らに霊(聖霊)の力をもって臨み、この悪霊を屈服さ
せ、しかも、追放してしまう、という離れ技をやってのけさせてし
まったのです。神の約束は、悪霊の力をもってしても妨げられませ
ん。人の力では悪霊に勝つことはできませんが、祈りによって、悪
霊追放という、神の栄光を顕わす出来事も起こりうるのです。

　ここで私たちが注意せねばならないことは、神を知らぬ民ばかり
でなく、クリスチャンでも、神を見失ったとき、そこに悪霊が入り
込む余地があるということです。悪霊の働きは実に巧みです。楽園
で蛇が女性にささやいたように、人の嫉妬心、名誉欲、金銭欲にさ
さやいて、信仰を揺るがします。この悪霊に取りつかれると、自分
の欲望に負けて、平気で罪を犯すようになり、堕落していくのです。
この悪霊に「ただのクリスチャン」では、克つことができません。
祈って聖霊の働きを求めましょう。私ではなく、神が働いてくださ
るとき、神は栄光を顕わしてくださいます。そして、恐れることの
ないように。神を知らぬ民の中で孤独のときでも、贖いの愛をもっ
て私たちを愛する神は、私たちを捜し求めていてくださるのです。
恐れず進みましょう。

(2006/06/25 三宅宣幸牧師)

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