2006年04月30日

『群れを牧せよ

主たる聖書テキスト: ペトロの手紙一 5章1〜11節


 神は何かご事業をなさろうとするとき、必ずしも直接手を下され
るのではありません。なさろうとするご事業のために、人を立てて
お用いになるのです。クリスチャンとは、単にかみの恵みを頂くだ
けの者のことを言うのではありません。神から頂いた使命を担う者、
それがいわば第二段階の、クリスチャンの本領なのです。

 さて、初代の教会においては、教会の指導者は一括して長老と呼
ばれていました。本日は、Tペトロ5:1〜をテキストとして与えられ
ましたが、ここで言う長老は、今で言う教会役員として、教会員一人
一人の世話をする使命を与えられた人々と共に、み言葉の奉仕のた
めに召された者、すなわち牧師、教師をも含むものと考えられるの
です。そして、長老は、自分で勝手になるものではなく、「神の羊
の群れを牧することを、神にゆだねられた」その召命を受けたクリ
スチャンなのです。長老になると何かいいことがあるのでしょうか。
長老職が社会的名誉と考えられる国もあるようですが、それは結果
であって、この務めには、多くの苦労が伴うのです。

 すでにペトロの手紙の時代においてそうでした。まず第一に、こ
の務めについて「強制されてではなく、神に従って、自ら進んで世
話をしなさい。」と記されています。「強制されて」という言葉は、
新約聖書でここにしか出てこない言葉ですが、「強制されて」でな
く、ということは、要するに、権力機構の一員としてでなく、とい
うことです。権力機構の一員であれば、人に押し付けられると同時
に、人に押しつけることもできるのです。が、この長老の仕事は、
自主性だけが頼りです。受け止める側も強制されません。一生懸命
働いても、受け入れられること少なく、徒労に終わることの多い務
めです。

 第二に「卑しい利得のためではなく、献身的にしなさい。」と言
われています。この務めは、儲かるかどうかという尺度では、全く
成り立たない務めなのです。ここで「献身的に」と訳されている言
葉は、これも新約聖書でここだけの言葉で、むしろ「喜んで、快く」
といった意味合いの言葉です。長老の務めは、神の喜びを人に伝え
ることであり、どんなことでも、喜んで、快く対応すべきなのです。
が、このことを実行するためには、多くの犠牲が必要です。

 そして、第三に、「権威をふりまわしてもいけません。むしろ、
群れの模範になりなさい。」とあります。ここは、この文の前の
「ゆだねられた人々に対して」の語に注目してほしいのです。ここ
で言う「ゆだねられた人々」は、2節の「ゆだねられた人々」とは全
く違う語が用いられています。そのまま訳すと「くじにあたった人々」
です。長老が担当する、長老が世話をする人々は、長老が好みで選
んだ人ではありません。まさにくじであたった人々であり、どんな
人がいるかわからないのです。でも、それらすべての人に対応しな
ければならないのです。権威をふりかざすどころではありません。
自ら、模範=型を示していかないと、この務めは務まらないのです。

 そして、極めつけは4節です。「大牧者(=キリスト)がお見えにな
るとき、あなたがたはしぼむことのない栄冠を受けることになりま
す。」これはどういうことでしょうか。それは、この世では栄冠を
受けられない、ということなのです。おそらく、一生、苦難、苦労
は続くのです。イエス・キリストが再び来られるとき、はじめて栄
誉に浴することができるのです。

 なぜ、このような苦労の多い務めに、神はクリスチャンを召した
もうのか、クリスチャンになるとは、この世の苦しみから逃れて、
楽をすることを意味するのではないのか。そのような疑問をもたれ
る方もいらっしゃるでしょう。なぜでしょうか。その答えは、唯一
「わたしは、あなたを必要としている」という神の言葉だけなので
す。この世は、救いを必要としているのです。新約聖書の時代から
今の世に至る時代においては、ほえたける獅子のような悪魔が跋扈
(ばっこ)している時代です。その中で神の民としての教会が、神の
み業をなすためには、まさに、「神の代理人」として働く人が求め
られているのです。クリスチャンに求められているのです。確かに
苦労の多い、苦労ばかりの務めです。しかし、旧約の時代、モーセ
が「神の代理人」としての務めを引き受けたがゆえに、神の救済計
画が一歩前進したごとく、今も、神のご計画実現のために働き人が
求められているのです。

(2006/04/30 三宅宣幸牧師)

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